第4章 異変
クラウスさんは、私が逃げぬよう、両脇を抱えて廊下を歩く。
私は足を宙に浮かせた状態で、
「ケーキとはいかなるケーキにございましょうか」
「ギルベルトが選んでくれた。リビングについてからのお楽しみだ」
「チョコのケーキがよろしいです。削ったチョコがいっぱいのっているやつ」
「さて、どうだろう?」
クラウスさんの声は楽しそう。
そこで私は視界の端にあるものを見つけた。
「あ、クラウスさん。ヒメココスがとてもきれいですよ。葉っぱを二、三枚持って――」
「カイナ」
クラウスさんの声から、正の感情が失せる。
「君の『不死』自体の異常さを考えれば、君が植物のセルロースを消化吸収出来るという新事実は取るに値しない。
この世界に召喚されたことから考えても君には元々、潜在的な魔術素養があったのだろう」
そして一呼吸置き、
「だがそれはそれとして――観葉植物は食用ではない! 肝に銘じたまえ。
私は君の全てを受け入れたい。だが、その性癖だけは性癖だけは断じて、断じて……!!」
「了解っす」
要約すると、
『観葉植物の常食は止めたまえ。私を敵に回したくなくば』
クラウスさんの声はマジであった。
というか私が魔術を使えるかも~みたいな重要情報を、サラッと仰ったな。
それはさておき。
「今後はなるべく控えるようにいたします」
「『なるべく』、ではなく金輪際(こんりんざい)だ」
「善処します」
「……ケーキ抜きの検討を」
クラウスさんー! 体罰反対派と信じていたのに! なりふり構わなくなったか!?
「食べません! 今後一切食べません!!」
とかジャレてるうちに、リビングに来た。
「うわああ!」
リビングのテーブルの上に、ケーキやサンドイッチが乗っていた! 光り輝いている!!
喜ぶ私を見、クラウスさんもやっと機嫌を直してくれたみたいだ。
「カイナ 紅茶の希望は?」
「何でもいいです!」
そしてお茶会に入ったが、クラウスさんはあまり食べなかった。
「召し上がらないんですか?」
「うむ。一心不乱に食べる君を見ている方が楽しい。紅茶のおかわりは?」
クラウスさんは紅茶片手にニコニコ。
ど、どういう意味だ!
「い、いただきます……」