第4章 異変
声がする。安楽なコタツの境界の向こうから、声がする。
「カイナ。出てきてもらえるだろうか。
あれから×日だ。どうしても君の顔が見たい。許されるのなら、君に触れたい。
もちろんやましい意味ではなく、また以前のように、君に屈託無く笑ってほしい。
その上で、二人で楽しく会話を――」
うるさい。
私は食ってたミカン(クラウスさんの献上品)の皮を、ペッとコタツの外にたたき出した。
沈黙。
ガサガサと、ミカンの皮をゴミ袋に入れる音。
クラウスさんは貴族ではあるが、実は意外に家事をこなす。
というわけでギルベルトさんが、完全にこっちに顔を見せなくなった今、家の掃除とかを代わりにやって下さったりしてる。
……女としてそれはどうなんだっ!!
でもクラウスさんと顔を合わせたくないしなー。
とか思ってると――寒っ!!
ぶるっと震えた。誰かがコタツ布団を上げたっ!!
怒りにも震えていると、外の世界から声がした。
「カイナ。ケーキを持参した。一緒に食べないかね?
ケーキは、コタツの中で食べると風味が落ちてしまうと思うのだが」
クラウスさんの顔がチラッと見えた。
焦ってるかと思いきや、上機嫌だなあ。
謎の自信に満ちているというか、以前に比べて余裕がある。
……私と恋人同士になったから?
私が照れ隠しでコタツにこもってると思ってるの?
ちっちっちちちち違うっ!! 照れてないもん!!
あ、あれは私たちというより周囲が勝手に盛り上がってただけで!
顔が真っ赤になる。
そう。あの告白の日。
気がついたらカップル成立となり、パーティーに無理やり駆り出された。
大勢に冷やかされ、一部始終が実況中継されてたとも知り、本気で窓から飛び降りようとした。
まあ落ちて死んでも生き返りますけどな。
その後、事の元凶がクズ銀髪と知り、マウント取ってタコ殴りにした。
何で告白を受け入れちゃったのか!
クラウスさん怖かったからだっ!!
勢いで『はい』って応じちゃっただけだからっ!!
「カイナ」
再度呼ばれ、渋々コタツから顔を出す。
クラウスさん。ゴミ袋片手にコタツの前にしゃがみ、私を待ってた。
「怒ってません?」
「なぜ?」
頭を撫でられる。
最近、猫扱いされるような。