第3章 告白(下)
■Sideカイナ
「カイナ。私が話している。他の者と話すのは止めたまえ!」
ああ、ついにスマホを取られてしまった。
もう私は半泣きである。いったいクラウスさんがどうなったのか。何の呪いか病気で、あんなことを言い出したのか。
もう何が何だか分からない。
とにかく逃げたいのだが、私は追い詰められ、半分へたり込んでいた。
何なんだ。クラウスさんは私にどうしてほしいんだ。
「カイナ、私は――」
「あの、すみません。ホントに、ごめんなさい!!」
頭をかばい、身を縮め、ぶるぶる震えている。
…………。
何十秒? いや何分か経っただろうか。
急に空気が変わる。
クラウスさんを包んでいた『気』がしぼみ、私への圧が減った。
「すまない、カイナ」
いつものクラウスさんの声だった。
「君を怖がらせた。大人げない真似をした。
ただ、大事なことを君に伝えたかっただけなのだ。
決して怖がらせたり、怯えさせたりしたかったわけではない。
どうか私を許してほしい」
クラウスさんが頭を下げる。
「その、私こそ……」
慌てた。けど、クラウスさんは頭を上げ、もう一度片膝をついた。そして私の手を取る。
眼鏡の向こうの碧の瞳は、優しく、穏やか。
ホッとして泣きそうになる。クラウスさんが、いつものクラウスさんに戻って本当に良かった。
「ちょっとビックリしただけです。私こそごめんなさい」
ニコッと笑うとクラウスさんもホッとしたようだ。
ようやく緊張が解け、私たちはお互いに笑い合った。
…………
「改めてゆっくり話しましょう」
私が提案するとクラウスさんもうなずいて同意してくれた。
「では向こうにティーセットを置いてあるんで取ってきます。待っていて下さい」
「手伝わせてほしい、カイナ」
「いえすぐ戻ります。クラウスさんはそこでお待ち下さい」
手を振ってクラウスさんから離れた。
そして角を曲がり――。
「……死ぬかと思った」
無事に離れられ、胸をなで下ろす。
クラウスさんは時々、謎の暴走状態になるから困る。
今は小康状態みたいだけど、またいつ元の状態になるか分からん。
「急いで脱出して、救急車を呼ぼう」
私は園芸作業用のはしごを壁に立てかけ、ギシギシ音を立てて上った。