第3章 告白(下)
■Sideライブラ
どうにも滑り出しが悪い。
それはライブラの面々に共通する感想のようだった。
「あー、もう。じれったいわね! 言っちゃいなさいよ、早く!!」
モニターを前に、いっとう騒いでいるのは、ワイドショー好きの主婦であった。
スティーブンは苦々しい思いでいる。
悪趣味にもほどがある。他人の告白を、高解像映像カメラに音声装置まで使い、当人たちの承諾なしに実況中継とは。
彼は離れた場所で、一人黙々とPC作業にいそしむ。
部下どものお祭り騒ぎにイライラしながら、止められなかった自分を悔やんでいた。
「あの二人、気まずいんじゃなかったのか? 割と普通に会話してるじゃねえか」
腕組みして構えてるパトリック。その手にはしっかりと『失敗』の賭け札が握られていたが。
「でも会話、かみ合ってないよね。普通、バラを受け取って『食べる』とか言う?」
ソファに腰かけ、足をぶらぶらさせながら、ニーカ。
あの少女にとって植物は、観賞用ではなく基本的に『食い物』なのだが、親切に解説してやる気はスティーブンにはなかった。
「あ、ちょっと!! 皆、静かにして!! クラッちが告白タイムに入った!! しーっ!! しーっ!!」
一番やかましい声で、K・Kが怒鳴り、ライブラのオフィスに再び沈黙が訪れた。
■Sideカイナ
クラウスさんは、高そうな服なのに、ためらわず、石畳に片膝をついた。
「カイナ……」
私の手を取り、祈るように見上げる。
「はあ」
私は小首をかしげ、何かがおかしいと思う。
いつもは岩のように、深く静かに構えているクラウスさん。
今は顔が赤く呼吸が乱れて肩が上下し、かすかに汗もかいている。
「あの、大丈夫ですか? あ、それと私もお話があるんですが。実は今日かぎりで、ここを出――」
「まず先に! 私の話から聞いてもらえないだろうか!?」
「は、はい!!」
デカい声で言われ、ビクッとする。
雑草のように強いと言われるわたくしであるが、怒られることだけは苦手だ。
特に大きな人に大声で怒鳴られると、それだけで固まってしまう。
「どうか聞いてほしい」
クラウスさんは依然、緊張しきりの様子で私を見、そして息を吸い――話し出した。