第3章 告白(下)
私は肩に大きなカバンを引っかけ、ドアを出る。
短い間お世話になった家を後に、という割には私の足取りは軽い。
何しろ、この世界に来て初めて、自分一人で街を歩くのだ。
危ないことは分かってるけど、ちょっとワクワク感がある。
でも家の入り口で立ち止まる。
この敷居の先は、セキュリティのない世界。誰も私を構ってくれない世界だ。
私はちょいっと片足を出し、敷地内に戻す。
で、またちょいっと、片足だけ出して、また戻して。
それをしばらく繰り返し。
「……行かなきゃ」
思い切って一歩を踏み出そうとして。
「?」
顔を上げる。気のせいかな。虫の知らせとでも言うんだろうか。
「嫌な予感がする」
ボソッと呟く。不吉。とても危険なものが迫っているような。
今すぐ、ここから逃げないといけないような。
というかマジで地響きがする。道の向こう、ライブラの建物の方から何かがこっちにやってくるっ!!
「よし行こうっ!!」
葛藤とか不安とか一気にどうでもよくなる。
私は境界をひとっ飛びに飛び越え、新しい世界に着地ーっ!!
「待ちたまえ、カイナっ!!」
地面に……着地する前に、前から来た人につかまったぁっ!!
「クラウスさん!?」
真っ正面から私の両脇をつかまえたクラウスさん。
そのまま私を、家の敷地の中にそっと下ろす。
「あ、あの……ども……」
そして私の真ん前に立ちはだかる。
さながら、外に出すまいとするかのように。
私はぶるぶる震えかけ――たけど、目を丸くした。
「何なんですか、その格好!?」
クラウスさんは正装だった。
元々良い感じの格好をしてる方だったけど、今は石油王の饗宴か、女王陛下の食事会にでも行くんですかという正装。しかもバラの花束を装備とか完璧すぎる。
「あ、写真撮っていいですか? 写真!!」
レアだわ。超レア。パシャパシャとスマホで写真を撮らせていただき、しっかりと保存。
あ、一緒に自撮り写真を撮らせてもらっていいかな。優越感に浸れそう。
――はっ!!
我に返る。そうだ。クラウスさんと私はちょっと気まずかったんだ。
どうしようかと思ってると、視界をバラで塞がれた。
「カイナ、これを」
クラウスさんが、私に向かって、でっかいバラの花束を差し出してた。