第3章 告白(下)
スティーブンはブチ切れ、デスクをバンッと叩いた。
「おまえら、とっとと通常業務に戻れ! ここはパーティー会場じゃないんだぞ!!」
『…………』
全員の視線はスティーブン……ではなくクラウスに向けられていた。
今のクラウスは、恥ずかしいくらいにビシッとキマッた貴族らしい正装。
王族の結婚式かセレブのパーティーにでも出かけるのかおまえ、と言いたくなる格好だ。
その脇では、執事がバラの花束の最終チェック中。
「坊ちゃま。ご武運を」
「ありがとう、ギルベルト」
スティーブンは深々とため息をつく。
なおクラウスは、自分の一世一代のイベントが、バカ共の賭けのタネになっていることに気づいた様子もない。
まあ、この男だから気づいたところで『応援してくれてありがとう』くらい本気で言いそうだが。
ちなみにボスのいる事務所にまで、顔を出しているバカは、ごく一部。
下の階にはもっとたくさんの連中がいて、それぞれに賭け札を握りしめ、今か今かと始まりを待っているらしい。
もうこれは、完全に公開プロポーズだ。
クラウスはまだしも、あの少女はひどく怒るだろう。
「あのな、クラウス。もう少し彼女のことを――」
「うむ。任せてくれたまえ、スティーブン!」
何をだよ。だから仕事中なんだよ。
「頑張ってね、クラっちっ!! おめでとうパーティーの準備は完璧だから!!」
パシャパシャとクラウスの正装を撮りまくり、はしゃぐ主婦。
「気合いだ! 女は押して押して押しまくれ!だ!」
激励するパトリック。
「オッズ4:7か。デマをばらまいた甲斐(かい)があったぜ」
同じ空間では、クズの胴元がゼーロ紙幣を数えている。
胴元なのになぜか『失敗』の賭け札を多数握りしめていたが。
こんなライブラ上げた大騒動になるなら、玉砕しようがどうでもいいから、この前の昼に行かせとくんだった……。
スティーブンが激しい後悔に襲われていると、チェインが空中に姿を現した。
「どう? あの子、今どうなの!?」
ワイドショーを見る主婦がごとく、目をきらめかせチェインに迫るK・K。
チェインは少女の家に偵察に行ってきたらしい。
だがチェインは、緊張しきりのクラウスに言った。
「ミスター・クラウス。あの子、ちょうど今、荷物をまとめ終えて家を出るところですよ?」