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【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い


■Sideライブラ

 メンバー全員が帰宅したライブラ本部。

 静けさに包まれたオフィスで、クラウスは一人、デスクで難しい顔をしていた。

 背後の執事が口を開く。
「主人に愚考を申し上げることお許しいただけるのでしたら、クラウス坊ちゃま」
「話してくれ」
「シノミヤ嬢のことは、ご婚約者殿か、しかるべき救済機関にお任せすべきかと存じます」
 ギルベルトは感情を消した声で述べる。
「だが……」
「坊ちゃまは最善の事をされました。ですがシノミヤ嬢はこれ以上の支援をご遠慮なさり、あの地に留まりたいと申されております。ならば――」

 ――これ以上は過ぎた干渉である。
 善意の名の下、他者の意思をねじまげる醜い行為でしかない。

「ギルベルト、彼女は……」
「確かに今日は、危険な目にお遭いになりました。
 そして未だ婚約者殿と連絡がつかないこと、先に避難されたはずの教会関係者がお戻りにならないこと。
 何より常に何かに怯え、過敏になられているご様子は、いささか奇妙に思えます」

 全ての感情を失ったように無表情でいたかと思えば、ドーナツ一つに号泣をする。
 そのチグハグさがどうにも気にかかって、頭から離れなかった。

「その通りだ、だからこそ――」
 少し勢い込んで続けようとする主人を、やんわりと制し、
「もちろんか弱い女性を見捨てるのは人道にもとります。よってここはライブラの皆様に助力を要請してはいかがでしょう。
 様子を確かめに行くのならばチェインさん、婚約者殿や教会関係者の捜索についてはザップさんに聞き込みを頼むのが適役――」

「それはライブラと何の関係もないことだ。
 私個人の勝手な私情で、皆を動かすわけにはいかない」

 きっぱりと言う。
 もっともな反論に思えたが、そこにはある種の意地が隠されているようでもあった。
 こういうときのクラウス坊ちゃまは、もう何を言っても無駄だ。
 ギルベルトは内心肩をすくめながらも、説得を続けた。

「では明日からは私が参りましょう。私がシノミヤ嬢の元に向かい、何かあればご連絡いたします」

「いや、いい。ギルベルト。おまえは明日は、終日、ここに待機し業務を続けてくれ」

 なぜ、とは語らない。
 この方は嘘をつけないのだ。

 だがギルベルトは御意、と丁重に礼をし、主人の判断に従うことにした。
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