第3章 告白(下)
■Sideカイナ
クラウスさんはあれ以来、来なくなった。
ただ代わりにギルベルトさんがいらっしゃる。
今日の夜もギルベルトさんが来た。
「あのギルベルトさん、そういうの、もういいですから」
入り口で、困り顔でお願いするが、
「坊ちゃまが是非にと」
彼はいつも花束を持参する。
「……ども」
仕方なく大きな花束を受け取る。
今日は赤のカーネーションの花束だ。クラウスさんが育てたものだけあって、すごくきれいだ。
こっちでの花言葉は何だっけか。ええと確か。
”My heart aches for you.(あなたに会いたくてたまらない)”
……いや、まさかね。考えすぎだ。
「失礼いたします」
ギルベルトさんは私に丁重に一礼し、家に上がる。
彼は不器用な私の代わりに花束生けたり、クラウスさんの代わりに植物のお世話をやってくれたりする。
そのついでにさりげなーく家の掃除をして下さったりと、ハウスキーパーか出張執事でも雇っている気分である。
「ど、どうも」
私は、勝手知ったるご様子のギルベルトさんの後をついていく。
「カイナさん。荷物をおまとめになっておられるのですかな?」
色々片付いたり、逆に物が散らかったりしてる家を見て、執事さんは言う。
「ええ。でもほとんどは、ここに置いていこうかなって思ってます。
そうすればクラウスさんのセカンドハウスとか、緊急時の臨時オフィスとかに、すぐに使用出来るかなって」
だがコタツは! コタツだけは譲れないがな!!
「私は、カイナさんがそこまで急いで、出て行かれることはないと思っておりますよ」
美しい手つきで、花瓶にカーネーションを生けるギルベルトさん。
「色々なことがおありになったのですし、ここで少し休まれ、それからゆっくりこれからのことを考える。私も坊ちゃまと同じく、それが最善と思います」
クラウスさんがいないせいかな。ギルベルトさんは、今日はおしゃべりだ。
花を生けた後はテキパキとキッチン周りを片付け、持参したケーキを出し、私のための紅茶を用意する。
「でも私、もう大丈夫だし。クラウスさんに迷惑だし。それに何というか……」
「怖い?」
「そうそう、そんな感じ――」
ハッとする。そうか。怖いのかもしれない。私は。