第3章 告白(下)
■Sideカイナ
私は『自分の』大きな家で、引っ越しのための荷物をまとめていた。
いやあ。言うまでは気が重かったけど、思い切って言ってしまえばあっという間だ。
「クラウスさん、まだ色々言ってたけど、スティーブンさんに仕事とアパートを紹介してもらうようお願いしたし……」
いつの間にか増えてしまった私物を整理する。
「服と下着、洗面セット、最低限の調理器具……洗濯機と冷蔵庫は大きすぎるから置いてく」
元の世界のことは覚えていないけど、やっぱり大きな家は落ち着かない。
もっとこぢんまりした場所で、ひっそり暮らしたい。
私は窓からライブラの建物を眺める。
「クラウスさん……」
胸が痛い。
離れたいか、そうでないかと言えば、もちろん離れたくない。
でもこれだけ一緒にいて、何も手出しをしてこないというのは、やはり慈善で面倒を見ている証拠だろう。
私たちは元通り、別々の世界で生きる。
ただそれだけ。
でも永遠の別れではない。ライブラという居場所はまだ与えられている。
たまに遠くから『ボス』の無事な姿を眺められれば、私はそれだけで十分だ。
「……でもこれは絶対に持っていく」
クラウスさんからいただいた、高価な聖書を眺める。
クラウスさん。
今頃はいつものように、静謐(せいひつ)なオフィスでお仕事をされているのだろう。
痛む胸を無視し、私はライブラの建物から目をそらした。
■Sideライブラ
ライブラの事務所は大騒ぎだった。
「止めてくれるな。行かせてくれたまえ、スティーブンっ!!」
休憩時間になるや、バラの花束片手に飛び出そうとするクラウスを、スティーブンは腰に抱きつき必死に止めた。
「いや、ちょっと落ち着けよ、クラウスっ!!」
朝にフラれ、昼に告白。
女の落とし方としてはリスクが高すぎる。
どう考えても、ろくな結果にならないだろう。
しかし恋に燃える獣と化した友人は、構わずにズルズルとこちらを引っ張っていく。
こうなったら血凍道でクラウスの足下を凍らせて……という物騒な案が頭に浮かんだとき。
「だらしねえなあ、旦那ぁ~。それじゃあチビも『余裕が無い男』って余計、旦那に愛想尽かすだけだぜ~?」
クズの声がした。
だがクラウスはピタリと止まった。