第3章 告白(下)
「何だよ、旦那~。ついにフラれたのかあ?」
クラウスはピクッと肩を震わせるが、やはり沈痛な面持ちで、
「彼女に言われた。もう、来なくていいと……」
と、さっきこちらにした説明を繰り返す。
ザップはギルベルトが用意した珈琲を飲みながら、意外に真面目な顔で言った。
「ま、そろそろ言い出すとは思ってたけどな。でも、そろそろいい頃合いじゃねえの?
旦那もさあ。つきあってもいねえ女のとこに、頻繁に男が通うのが異常だって、ちったぁ気づけよ」
「つきあって……?」
その瞬間。
クラウス・V・ラインヘルツが。
顔を上げた。世のあらゆる悪逆に対峙して、なおも揺るがぬ希望をその目に。
叫んだ。
「ザップ! 私とカイナがつきあっていれば、私はカイナに会ってもいいのだろうか!?」
『…………』
何を言ってるんだろう、彼は。
多分、その場にいた全員(透明化してるチェイン含む)が思っていた。
だがクラウスは目に炎を宿し、立ち上がった。
「カイナと私が相思の仲ということになれば、私は堂々とカイナに逢える!
カイナも私に対して何ら負い目を感じることはなくなる!」
『え。そうなの?』
ライブラのメンバーは互いに目を見交わすが、誰一人結論は出なかった。
というかこれは、朝のオフィスで堂々と話すことなんだろうか。
しかし、一度こういう状態になったクラウスを止めることは不可能。
ライブラのメンバーが経験から知っていることだ。
『がんばれ、お嬢さん』とスティーブンは心の中で祈った。
そしてチラッとザップを見た。
”にたぁぁぁぁ”、とクズは笑っていた。
多分何か企んでる。
だが部下のそんな内心に気づく様子すらなく、クラウスは拳を握る。
「クラウス・V・ラインヘルツ――推して参るっ!!」
世界の均衡を崩す者どもを粛正するがごとくの勢いで。
そしてスティーブンは見た。オフィスの扉がわずかに開いているのを。
そこから半分だけ顔をのぞかせていた、ライブラメンバーのパトリックとニーカが、そーっと扉を閉めたのを。
…………。
かくして『ボスがパーティーのとき連れ回してた子にコクるらしい』という話は、その日中に、ライブラの上から下まで余すことなく広まったのであった。