• テキストサイズ

【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 クラウスが想いを寄せる少女は、少し前まで、三流魔導組織の奴隷兼、実験台だった。

 ガレキの中で彼女を見つけたクラウスは、彼女の面倒を見た。
 それは一生懸命見た。
 慈善でもここまでしねえよ、というレベルで見た。

「だが、もう自分は一人でも大丈夫だから、これ以上の来訪は不要だと……。
 そして能力のない自分が、ライブラの中枢に出入りするのは気が引けるから!
 今の家の全権をライブラに譲渡した後、下位部門の職場と居住地に移りたいと!
 その必要は無いと、私がどれだけ言葉を尽くしても、聞いてくれなかった……」

 沈痛の極み、という表現がふさわしかった。
 だがついに言ってしまったかーとスティーブンは思う。

 …………

 実は先日、彼女を連れ、『武装集団襲撃の可能性が高い』とタレコミを受けた家具店に連れて行った。

『不死』の少女の最終的な”安全性”を見極めるためだ。

 だがクラウスがどんな報告書で本部をごまかそうが、全身粉砕から数時間で、完全再生する能力は『血界の眷属(ブラッドブリード)』の長老級に近い。

 例え彼女がクラウス・V・ラインヘルツにどれだけ従順であろうと、到底油断出来るものではなかった。

 そしてこれを知ればクラウスは激怒するだろうが――場合によっては、牙狩り本部に密告することも辞さないつもりだった。

 もちろん彼女の境遇には、個人的に同情している。
 良い子だということも分かっている。クラウスの恋も応援はしてやりたい。

 だが情だけでは世界は守れない。
 例え非道・外道と罵られても、己の道を変えるつもりはなかった。
 
 ……という気合いに反し、少女はことごとく何もしなかったが。

 下の階に落ちようが、武装集団の銃口に晒されようが、人質になろうが、クラウスが危機らしき状況――超強化銃の前に生身で立ったり、軍用ヘリを素手で粉砕すべく、十五階の窓から飛び出していったり――に陥ろうが、ついでに自分自身が十五階から落下し、クラウスに受け止められようが……何もしなかった。一切合切。

 それだけなら良かったのだが。

 クラウスが到着するより前、彼女はいつものように無邪気に、電話口のクラウスに言い放った。

『ご心配なく! 死んでも生き返りますから!』

/ 498ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp