第3章 告白(下)
■Sideライブラ
その日は当たり前にやってきた。
いつかは来る日だった。
だが当の本人は、あれほどの明晰な頭脳を持ちながら、その兆しにすら気づかなかったようだ。
例の少女がコタツに引きこもってから×日ばかり後のこと。
その日、スティーブンは早めに出勤し、珈琲を飲みながら早朝のデスクワークに従事していた。
そこにクラウスが来た。今日もまた、少女の家から朝帰りである。
まあ例によって何もなく健全に眠ったのだろうが。
「おはよう、クラウ――」
片手を上げて挨拶をしかけ、言葉を止める。
「おはよう、スティーブン……」
「ど、どうしたんだ、クラウス!」
思わず叫んでしまった。
常に明朗快活、覇気あふるる我らがリーダーが、今朝は幽鬼のごときオーラをまとっていた。
「別に……何でもない……」
どう見ても何でもなくない。クラウスはいつもの執務デスクについたが背中を丸め、見るからに『しょんぼり』していた。
主の迎えに出ていたギルベルトは、いつも通りの神速で紅茶の準備に取りかかっているところであった。
『ギルベルトさん、何かあったのか?』
クラウスに気づかれぬよう、身振りで聞いてみたが、老執事は困ったような笑みを返すのみだった。
それで、大体察しはついた。
「クラウス。お嬢さんはどうしたんだ?」
形だけ聞いてみる。最近は一緒に出勤することも多いのに。
「っ!!」
クラウスの反応は顕著だった。こちらが聞いた直後に胃を抑え、冷や汗をかく。
「その……カイナは……今日は休むと……」
先日のコタツこもり事件をのぞき、『私がお役に立てることがあれば、どんな御用でも!』と毎日顔を出す子が?
「クラウス。あの子と何かあったのか?」
「……っ!!」
明らかに『ギクッ』という擬音しかつけようの無い顔をした。
なるほど。不在の少女、落ち込んでいるクラウス、沈黙を守るギルベルトさん。
これは……もしかして、もしかするのか!?
「クラウス、君、ついにあの子に手を――!」
「カイナが、『もうこんな関係は止めよう』と言ってきたのだ」
……どういう関係だよ。