第3章 告白(下)
「『カイナ・シノミヤの”不死”は、神性存在によって付与された本人固有の能力で有り、第三者には”決して”伝播(でんぱ)しえない』」
耳をふさぎたかった。でも出来なかった。
「”決して”――たった一つのその単語を導くため、クラウスは80000ページの書類を作成した。
途中からは皆も協力したよ。ザップも、チェインも、もちろんギルベルトさんも。
君が見たことも話したこともない――パーティーで一度、君を見たきりの――ライブラのメンバーたちまでもリーダーに協力した」
スティーブンさんは白い息を吐く。
「クラウスは君に関するあらゆるデータを精査し、揺るぎようのない理論を組み立て、眷属憎しのお偉方どもに突きつけた」
銃声が聞こえる。
「クラウスの執念は実った。
『牙狩り』本部は、君への評価を初期段階の『本部最下層超特殊閉鎖独房における二十四時間完全拘束及び対”血界の眷属”用実験素材』から大幅に下げた。
『ライブラによる監視が適当』までに」
……私が長い眠りについてる間に、そんな過酷な作業を裏でしていたなんて。
知らなかった。気づかなかった。気づけなかった……。
「クラウスさん……何で、私のために、そこまで……」
クラウスさんがスマホをブツ切りした理由が、やっと分かった。
それだけして守ってやったのに、未だに無思慮にホイホイ死のうとしてたら……そりゃまあ、たまらないわな。
「理屈じゃないんだ。虐げられた弱い者に寄り添うのは、あいつの本能みたいなもんだ」
「でも不幸な子、可哀想な子なんて、この街だけでも掃いて捨てるほどいるでしょう。
私だけが、そこまで不幸なわけじゃないのに……」
スティーブンさんが私に手を伸ばす。
「それでも、目の前で独りぼっちで泣いている子がいたら、あいつは見捨てられない。
あの日、君はクラウスに発見された。それが運の尽きだったんだよ」
「そこまでされても……私、返せるものは何も……」
スティーブンさんは少し緊張したみたいな手つきで私の頭を撫でる。
あまり馴れていない猫を撫でるように。
「何もしなくていい。見返りを求めての行動じゃないんだ。
でもそうだな。少しでも恩に報いたいと思うのなら――」
「はい」
「もう死なないでくれ。クラウス・V・ラインヘルツのために」