第1章 出逢い
夜は寒い。
私は、メモ用紙をビリビリに破き、夜風に飛ばす。
そのメモ用紙は、昼間、クラウスさんとの別れ際にもらったものだ。
『何かあれば、この番号にご連絡を』
紳士はそう言って去って行った。
くそ! 思い出しても顔から火が出そうだ。
泣きながら、アメリカン激甘ドーナツ完食とか、どんな痛メンタル女だ!!
だって甘いものなんて、ホントに何年かぶりだったのだ。
あとは雑草とか食ってたしなあ。
まあドーナツなんて重いものをたっぷり胃につめたせいで、今は胃もたれがハンパないけど。
ああ、涙が顔の傷にしみて超痛かったし。
「ふう」
相変わらず、残ったガレキの陰に身を横たえ、霧深い夜空を見上げる。
ガキみたいにグズグズ泣いて、またもクラウスさんに変な心配をさせてしまった。
私を落ち着かせるため、追加のドーナツを買いに行きかけたくらい。それを止めるのに、どれだけ苦労したことか。
「さすがにもう来ないですよね」
結界は修復されたし、今度の今度こそホントに婚約者が来るとは言っておいた。
その上、泣きながらドーナツを食う痛い姿を見ては、普通はもう関わりたくないと思うだろう。
私は大きなガレキの下に身体を横たえ、目を閉じる。
どうせ今夜も眠れはしないだろうが。
例えクラウスさんが来たとしても、明日は身を隠そう。
私が婚約者に回収されたものと思ってもらい、手を引いていただこう。
『組織』からは未だに連絡がない。