第3章 告白(下)
スティーブンさんの運転する車は、ヘルサレムズ・ロットの街中を走っていく。
やっと落ち着いてきた私を見ながら、スティーブンさんは、
「音楽でもかけるかい? それともラジオの方が?」
「いえ、何でも……お好きなので」
ヤバい。緊張感が戻ってきた。
「そ?」
ラジオがつけられ、異界人のミュージシャンによるジャズが流れる。
外から目をそらせば、気まずい沈黙の車内だ。
大丈夫かなあ。このまま、『永遠の虚(全貌不明のヘルサレムズ・ロット最深部)』に放り込まれたりしないかなあ。
ビクビクしながらスティーブンさんをうかがうと、バチッと目が合った。
「あ。ひょっとして僕、怖がられてる?」
「…………」
ストレートに言うか。スティーブンさんは困ったような笑顔で、ハンドルを握ってる。
「大丈夫だよ。取って食ったりしない。クラウスに頼まれたのも、時間が空いてたのも本当」
「い、いえ別に疑ってるわけでは」
疑ってました。すみません。
「いや、いいよ。だって知り合って間も無いからね。それに僕はちょっと人見知りだし」
「人見知り? スターフェイズさんが? とてもそうには見えませんよ!」
すると彼は苦笑して、
「よく言われる。仕事上、嫌々人付き合いをしてるけど、本当は家にこもっていたくってさ」
「分かります。私も人見知りなんですよ!
気の合わない人と会話とか、辛いですよね!」
「そうそう。こういうのは、人付き合いに抵抗がないクラウスに任せたいのに、あいつときたら――」
「ますます分かります。クラウスさんってホントにいつも――」
……あれ。会話、意外に弾んでない?
しかし。なぜか知らんが、私の記憶の向こう側から、謎の知識が舞い降りる。
『会話の弾まない相手と盛り上がる方法☆』
その1。相手のコンプレックスにつけ込み、警戒心を解く。
その2。共通の知人を話題にする。悪口陰口だとさらに盛り上がる。
――スティーブンさんのペースに乗せられてる……!
人心掌握術とすら言えない話術の初歩。
だが上手いこと乗せられたのだけは確かだ。
お、大人めっ!! クラウスさんは絶対にこんなことしないのに!
というかクラウスさんみたいに、何ごとも真っ正面から、という人の方が珍しいんだよなー。
と、再確認しつつ私は引きつり笑いをした。