第3章 告白(下)
夜半。クラウスさんと私は、ベッドで向かい合って正座している。
「いいかね、カイナ。ヘルサレムズ・ロットは危険な場所だ」
知ってるって。
「私、つい先頃まで普通にテントで一人暮らしでしたし。さすがに分かってますよ」
「だが一箇所に留まっていた君は、この街の恐ろしさを全て把握しているわけではない」
「クラウスさん~。私だって子供じゃないんですよ?
それなりに対策もしますよ。大通り以外は絶対歩かないし、人類(ヒューマー)経営の家具チェーン店しかのぞかないつもりですから」
「店丸ごと『装う』ような異界生物もいる。来店した客を捕食するためだ。
例え店は本物でも、次元武装強盗集団が襲撃してきたり、隕石が降ってきたりしたらどうするのだ!」
『アホですか、あんた』と言いたくなる例えばかりだが、これら全てが日常茶飯事に起こりうるのがヘルサレムズ・ロットである。
だがしかし!
「そうなっても大丈夫! なんと言っても私は――」
「一箇所に留まり、数人を相手にしていた今までとは違う。
君の『不死』能力が、大勢の目に触れる状況はマズい。
永遠に再生する生き餌として、あるいは魔導実験の道具として、闇市場で売り買いされたいのかね?」
即座に釘をさされた……。
「私が一緒に行こう」
案の定、そう言ってきた。
まあクラウスさんがご一緒なら100%安全だ。
だがしかししかし!
「明日の朝一で、要人との重要な会談があるんでしょ?
小娘と買い物に行ってる場合じゃないはずですよ?」
盗み聞きはよくないんだけど、聞いてしまった。
秘密結社のリーダーは、重要案件がいっぱいなのである。
「…………」
クラウスさん。怖い顔をさらに怖くし――スマホを取り出した。
「ギルベルト、私だ。明日の予定は全てキャンセ――」
「うわあああっ!! 何でもありません! クラウスさんは何も言ってませんよー!!」
スマホを奪い取って怒鳴ると、返事を聞かず通話終了させる。
クラウスさんをキッとにらみ、
「世界を救われる方が、何、馬鹿なことを!!」
大げさな言い方だけど、どうもこれは事実らしい。
人界は常に危機にさらされ、クラウスさんは世界の均衡を保つべく、ここにいらっしゃるのだという。
私が今まで思ってたより、ずっとずっとすごい方なのだ。