第3章 告白(下)
クラウスさんも笑ってる。
「カウントダウンは止めてくれたまえ、カイナ。そうだな……」
クラウスさんはもう少し悩んで”Dear...”と、流れるような筆記体で書きはじめた。
そして私に一枚の手紙を渡す。
ドキドキしながら読むと、そこには一文だけ。
” The moon is beautiful. ”
……ナニコレ。
首をひねっても意味が分からん。
月が綺麗って、そら綺麗だろうが、霧に覆われたヘルサレムズ・ロットでは月なんかまず見れない。
何かのイディオムなのか? マジ意味不明。
「あ、ありがとうございます……そっすね。月、いいですね」
私の微妙な反応にも、クラウスさんは微笑むのみ。どこか切なそうに。
「さて、夜も更けた。そろそろ寝ようか」
クラウスさんが立ち上がり、ネクタイを緩める。
「はーい」
後ろからちょこちょことついて歩き、寝室に向かう。
二人でベッドに潜り、お休み前の習慣になってる軽いハグをする。
「では、明かりを消す」
「はい。おやすみなさい、クラウスさん」
ふかふかのベッドに潜り込み、クラウスさんにくっつこうとした。
そのときクラウスさんのスマホが鳴る。
「クラウス――ああ、ギルベルトか。大丈夫だ。かまわない」
謝るように私の頭を撫で、そのままお仕事の話をし出す。
私は眠気もあり、ゴソゴソと、ベッドの奥へ這っていく。
クラウスさんの足を枕にゴロゴロと身体を丸めたが、
「……うーむ」
この閉塞感。かすかな息苦しさ。暑苦しさ。
――そう。『アレ』は、この感覚にちょっと近かった気がする。
電気毛布? いや違う。床暖房? 全然違う。
もっと大きくて、包容力のあるものだったような……。
「カイナ。こっちへ」
電話を終えたクラウスさん。私をつかまえ、ずりずりと枕の方へ移動させる。
私を自分の横に寝かせ、お布団をかけて下さる。
「すまなかった。では寝ようか」
と、明かりを消しかけ。
「クラウスさん。明日、私、買い物に行ってきますね」
「何?」
クラウスさんが止まる。
「ヘルサレムズ・ロットって、色んな店があるでしょ?
私がさっき言ってた『アレ』も、多分どこかにあると思うので、ちょっと探しに――」
「許可しない」
なぜ買い物にあなたの許可がいる……。