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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 日頃の感謝を伝えようとしたのに、本人が真横にいるせいか、気の利いた文章が浮かんでこない。
 だからつい、さっきの『アレ(正体不明の暖房器具)』のことを考えていた。

「私への手紙かね?」
 宛名だけ読み、見るからに照れる紳士。
「だって私が手紙書く相手って、クラウスさんしかいないですし」

「……。誰か他にはいないのかね? 大切な相手とか……」

「いないですよ?」
 ん? もしかして、何らかのセラピーのつもりだった?
 クラウスさんはしばし首をひねり、
「君は日本出身だったな。縦書きの便せんも用意出来るが……」
 あー、それ無理。
 てかなぜ英語の勉強で、わざわざ日本語を?

 何がなんでも自分への手紙を書かせたいとか……まさかね。

「話しませんでしたっけ? 私、『不死』を得る契約のとき、記憶をごっそり食べられてんですよ」

 記憶とは感情。感情とはエネルギー。
 どこぞの世界で、少女の感情をエネルギー源にしようとした宇宙生物がいたとかいないとか。

「……それは、聞いていない。『不死』の代償に?」

 あ、クラウスさんが険しい顔。

 以前の聴取の際、クラウスさんとスティーブンさんに、神性存在との契約のことはあれこれ話した。

 昔の記憶があいまいだということは、ご存じのはずだけど、契約絡みだったとは話してなかったかな。
 いちおう話しとこう。

「『不死』の代償では無いですね。小娘一人の記憶なんて、とても『不死』と釣り合いが取れないですし。
 契約の待ち時間のおやつですよ。気がつくと、ひょいひょい記憶をつままれてて」
「…………」

 こう言うと悲劇っぽいけど、おやつ程度、というのが最大級の幸運だ。
 なにせ美味しい部分だけ食われたので、食い残しが結構ある。
 全部食われてたら私は言葉はもちろん、食べ方も歩き方も忘れた、赤ちゃん状態での『不死』という悲惨なことになってただろう。

「クラウスさんは日本語は?」

「多少は。以前、仕事でギルベルトと共に日本に赴いたことがある。ライブラには日本人の同胞もいる」

「そうなんですか、本当に色んな方がいるんですね!」

「良ければ今度、ライブラの日本人のメンバーと会ってみるかね?
 並行世界とはいえ、同郷の者と話せば何か思い出すかも――」

「あ、多分思い出せないっす」

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