第3章 告白(下)
やるぞー!、という気持ちを打ち砕かれ、すごすごと新しい家に帰る。
まあライブラに入った経緯は、半ばクラウスさんの同情によるものだ。
戦闘能力もデスクワークのスキルも無いとなれば、持てあまして当然か。
激しく落ち込んだが、己の未熟ゆえと自分を叱咤し、家路をたどる。
が、家に入るか入らないかのうちに、スマホの通知が猛烈に鳴り出した。
『先ほどはすまなかった。だが君の強い意志と決意は痛いほどに伝わった。いずれ何らかの形で応えたい所存であり――』
『しかし何より先に君の心身の回復が最優先、という思いに変わりは無く、どうか提案を承諾してほしく――』
『もし良ければ今晩のディナーを是非、一緒に――』
どんだけ繊細だと思われてるんだ、私。
そこまでのフォローいらんて。
てか、クラウスさんと私は今や上司と部下。
仕事中に私的なメッセージを交わしまくるの、正直どうなんだろ。
……結局のところ、クラウスさんへの依存はあまり変わってない。
何よりクラウスさんが――連日のように泊まりに来る。
…………
…………
レストランでのディナーを終え、ギルベルトさんの運転する高級車が、私の家の前に止まる。
ドアを開けてもらい、クラウスさんに手を取ってもらって、車から降りた。
私の家。通りから見ると、確かにオフィスビルがあるようにしか見えない。
そのすぐ手前にはライブラのビル。安心感を覚える。
私は自分の家に。クラウスさんはライブラに戻る。
今夜はそれでお別れである。
私はクラウスさんに頭を下げ、
「クラウスさん。今夜は本当に楽しかったです。では――」
「ギルベルト。何かあれば連絡を」
「承知しております。では明朝、お迎えに伺います、坊ちゃま。
それではカイナさん。私はこれにて」
「…………」
レディそっちのけで、主従は勝手にやりとりを終え、車が走り去っていく。
――またか……。
「行こうか、カイナ」
「あ。はい……」
でもイヤではない。
クラウスさんがあまりにも『当たり前』という顔で私の手を取るので、ドキドキしながらついていく。
境界を一歩越えれば、そこには温室と庭園のある、気持ちの良い暖かな家だ。
も、も、もしかして、今夜こそついに……?
想像するだけで顔から湯気が出そうだった。