第3章 告白(下)
「スティーブンさんんんっ!!」
中にダッシュで戻り、事務作業をするスティーブンさんのデスクを叩く。
あんた、知ってて言わなかったな!!
「君がライブラに渡すといった金だよ? リーダーがどう使おうと、君に異論はないはずだろう?」
相変わらずこちらを一切見ず、上司はパソコン作業。
「つか、あれから数日ですよね! 普通、こんな短期間で家が建つんですか!?」
「ここヘルサレムズ・ロットだから。現にどんな大災厄があっても、数日で街は元通りになってるだろ?」
便利だなあ。『ヘルサレムズ・ロットだから』で何でも説明出来るって!!
「新居完成おめでとう。ちゃんと毎日食べて、死なないようにするんだよ。
ま、クラウスがそうはさせないだろうけど」
全然『おめでとう』と思ってなさそうな顔で、仕事を続ける男。
「何で! 上司の無駄遣いを止めてくれなかったんですかっ!!」
「悪かったよ。でも僕は男女の仲に立ち入るほど野暮(やぼ)じゃなくてね」
超棒読みの返答だった。
野暮というか『面倒ごとに巻き込まれたくない』という本音が見え隠れしてるような……。
「あと男女の仲って。わ、私とクラウスさんは、そういう関係じゃ……!!」
顔を超真っ赤にして言う。
信じられないかもしれんが、クラウスさんは未だに一線を越えてこない。
「そう思ってるの、ライブラの中じゃ君とクラウスだけだろうね」
……当人同士より先に、周囲に公認される関係とは。
い、いやでもクラウスさんとはホントに未だに何もないし、私の自意識過剰の可能性も否定出来ず!
顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしてると、
「こっちは世界の均衡が保てればそれでいいから。
君もその気がないなら頑張って逃げなよ。まあ今さら逃げられたら、の話だけどね」
相変わらずこっちを見もせず。死ぬほど他人事の口調だった。
この男だけは、この男だけは! 度しがたい!
こぶしを震わせていると、早足でクラウスさんが入ってきた。
「カイナ。来てくれたまえ!」
楽しそうな笑顔で、私の手をつかむ。
「いやちょっとクラウスさん、あなたにお話が……いや、手を引っ張らないで! ちょっとー!!」
悲鳴を上げながら赤毛の巨大な熊に引きずられてる間。
氷の副官はついにこちらを見ず、無言で片手を上げたのみであった。