第3章 告白(下)
スティーブンさんは冷静な顔で珈琲を飲み、
「勇気ある決断だ。けど何割かは、手元に残しておいた方がいいんじゃないかな?」
と言った。
「クラウスさんには、今まで、あまりにたくさんの事をしていただきました。
それに私が『メビウスの輪』から逃げ出す勇気を持てたのも、ライブラの皆さんのおかげです。ですから――」
「カイナ。私はそんなつもりで君を助けたわけではない! 純粋に、友人として――」
「いきなりそんな大きなお金を渡されても使い道が分かりませんし、他のお世話になった方にもお礼がしたいし――」
「ダメだ。君が受け取りなさい!」
うう。クラウスさん、ドンッと構えてる。彼がこの状態になったらハンパなことでは動かないと、私も学習してきてる。
あ。そうだ。
「……どうしてもライブラで受け取って下さらないと?」
「無論」
「私が好きなように使って構わないと?」
「当然」
「……クラウスさん。じゃあ、この金を全額ザップさんにあげてもいいってことですよね?」
『っ!!』
二人が息を呑む。そして、
「本当ですか、カイナ様ーっ!!」
「いや、それ止めた方がいいから。それならヘリからヘルサレムズ・ロットにバラまいた方がまだマシだから」
扉の陰から超高速で走ってきたザップさんと、スッと私の横に姿を見せたチェインさん。
聞いてたんかい。
「いや~ホンっト、悪いなあ~。でも確かにおまえの面倒を見すぎて疲れちまったし~。あ~カイナちゃん、マジ可愛い~。俺の妹みたいな気がしてきた~。
あー。助かる~。これでツケを全額払っても釣りが来るぜー!!」
超気色悪いことを言いながら、すりすりしてくるザップさん。
煙草くさいから止めれ。
「あー、お嬢さん、チェインの言うとおりだ。そこの男に渡すのだけは止せ。異界生物に食わせた方がまだ有効な使い道と言える」
眉間を抑え、頭痛が痛そうなお顔のスティーブンさん。
「スティーブンに同意する。ザップは道理の分かる男だから、君の意図を察して君のために金銭を使うことはないだろう。それでは君に金を渡した意味がない」
……クラウスさんの言ってることはマジで意味が分からん上、どうもザップさんを信頼してるらしいとこが、完全に理解不能であった。