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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 …………

 眠い。お湯、あったかい。

「坊ちゃま。洗いタオルでございます」
「すまないギルベルト。
 カイナ。脇を洗うから腕を上げなさい。そう、良い子だ」

 誰かが、自分の服をずぶ濡れにしながら、私を風呂に入れてる。
 
「やはりチェインさんや他の女性の方にお任せした方が……」
「だがこれは業務外のことであるし、女性には力仕事だ。
 カイナ。泡を流すから目を閉じたまえ」

 目を閉じる。誰かが私を支え、シャワーをかける。
 自分自身は、頭からシャツからズボンまでびしょ濡れになりながら。

「また眠りにつきそうだ。ギルベルト。バスタオルを」
「用意してございます、坊ちゃま」

 ふわっと、乾いた清潔な何かに覆われる。 
 そのまま私はまた眠ってしまった。
 
 …………

 誰かが話している。

「もう二週間になる。病院に連れて行くべきだろうか」

「万が一、検査で『不死』と判明したら厄介だろう。時々起きて栄養ゼリーは摂ってる。水分は点滴で最低限まかなっているんだから、しばらくもつだろう?
 仮に死んでもまた――冗談だよ。そんな顔でにらむなよ、クラウス」

「今までの不眠の反動が一気に来たのかもしれません。ミスタークラウス」

「……それより、なんでチビが旦那のベッドで寝てるか聞いてもいいっすかね?」

 …………

「カイナ。少し私と歩こう。筋力が衰えてしまう」

 誰かに手を引かれ、どこかを歩いて行く。
 窓からの光と、大きな長い影をぼーっと見ている。

 …………

 誰かが私を膝に乗せ、片手で支えて書き物をしている。
 誰かへの手紙だろうか。
 窓辺のカーテンが揺れている。

 聞こえるのはペンが紙をこする音だけ。
 とても静かだ。紅茶の良い匂いがする。
 
「In peace I will lie down and sleep,
 for you alone, Lord,
 make me dwell in safety...

(平安のうちに身を横たえ、私は安らかな眠りにつく。
 主よ。あなただけが、 私を安らかに住まわせてくださいます。
 ――”詩篇4:8”)」

 誰かの話す言葉が、とても心地良い。
 私は安心して、もっと深い眠りにつく。

 …………


 そして眠って眠って。

 目が覚めた。


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