第3章 告白(下)
クラウスさんについて、ヘルサレムズ・ロットの街を歩く。
行き先は、以前、スマホで撮影した場所。普通のビルに瀟洒(しょうしゃ)な洋館がくっついたような、変わった建物だった。
「わ!」
車のブレーキ音にびっくりする。がやがやと通行人の騒がしい音。異界人の露天商の声。
今までは、こうしてゆっくり観察する余裕なんてなかった。
『見るだけ』だった風景の中に自分がいる。とてもおかしな気分だった。
そして私たちはビルのエレベーターに入る。
「???」
四面扉の奇妙なエレベーターだった。それに揺られ、上へ上へと上がっていく。
私はほとんどクラウスさんに引っ付き、緊張しっぱなしだった。
そしてハッとする。
これからライブラの人たちと会うのだろうか。
「あ、あ、あ、あの、わわわわ私、い、今、汚れた格好でででで」
キョドりまくる私の頭を撫でるクラウスさん。
エレベーターが止まった。
「心配はいらない。さあ、ついた」
クラウスさんが扉の一つを開け、光が差す。
「わあ……」
扉が開いた先は――緑にあふれる静かなオフィスだった。
朝のせいか誰もおらずホッとする。いや一人いた。
「お待ちしておりました。カイナ様。クラウス坊ちゃま」
「ギルベルトさん!!」
執事のギルベルトさんが礼をした。すでに紅茶と朝食の準備は万端みたいだ。
けどクラウスさんは先にやることがあるらしい。
「カイナ。こっちへ」
手招きされ、ふらふらと窓の方に行く。
クラウスさんが両開きの窓を開けると、テラスが見える。
外の風が頬をかすめた。
「…………!」
テラスの手すりから、ヘルサレムズ・ロットの街を俯瞰(ふかん)することが出来た。
「すごい……」
霧の雲が近い。ビルとビルの谷間を飛んでいく異界の飛行生物が見える。
朝の街を歩く人たちは粒のようで、異界人だか人間だかも分からない。
「あそこだ。君のいた教会は。見えるかね?」
クラウスさんが指さした方を見る。
そこには、ビルの谷間に挟まれ、ポツンと小さな土地があった。
もう幻術は解けている。目をこらしてやっと、寂しげに張られたテントが見えた。
私がいたのって、あんなに小さな場所だったんだ……。