第3章 告白(下)
「でも、辛いとかそういうのは無いですよ。記憶も半分、吹っ飛んじゃってるし。
元いた世界での私が幸せだった、なーんて保証もありませんしね」
あはははー、と笑うと。
「いや分かる。元の世界での君がどうだったのか、記憶をさかのぼらずとも分かる。
君のその明るい笑顔を見ていれば」
「……そ、すか」
夜明けの風に、クラウスさんの髪が揺れ、碧の瞳がよく見える。
そしてクラウスさんが深々と頭を下げた。
「君に詫びたい。我々の世界の愚か者が犯した罪を。
君から全てを奪い、あまりにも残酷な運命を担わせてしまったことを」
「ち、ちょっと、止めて下さいよ! クラウスさんはカケラも関係ないじゃないですか!
お願いだから頭を上げてください!」
いかん。空気が重くなる! 話題を変えねば!
「それよりクラウスさん! 私、ライブラってとこに入るんでしょう!?
どういうところなんですか? クラウスさんのこと、何て呼んだらいいんですか!?」
ワザとテンション高く、クラウスさんの周りを跳ね回る。
クラウスさんも頭を起こし、
「む……。呼称は今まで通りで構わないが。そうだな。君に今、見せておきたい。
だが、一晩睡眠を取っていないが体調は問題ないのかね?」
「もちろん、大丈夫です! 寝なくても死んでも大丈夫!」
ドンッと胸を張る。正確には深刻な睡眠障害なんだけど。
「いやそういう意味では……では、来たまえ」
「はい!……あっ」
凍りついた。クラウスさんについていこうとした私の足が。
敷地の境界線から外に出ていた。
許可無く……外に出てしまった!!
恐怖が私を襲う――はずだった。
「……あれ?」
怖くない。
「あれ?」
さらに数歩進んで振り返る。完全な更地になった元教会が見えた。
あれあれ?
私はちょっと歩いて敷地に戻る。そしてまた外に出る。
敷地をまたいで、進んだり戻ったり。
それ何度も何度も何度も何度も繰り返す。
クラウスさんは一度も声をかけることなく、私を静かに見ていた。
そして私の気が済んで、動きを止めたところで。
「カイナ。来たまえ」
私の手を握り、歩き出した。
私はよろめきながら、クラウスさんの手にしっかりつかまり、ついていった。