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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 夜明けの光が、霧を通しヘルサレムズ・ロットの街に降り注ぐ。

 私はまだ呆然としていた。

「旦那~。俺の深夜超過勤務手当、よろしく頼むぜ~。あとチビ、今度金貸せよ」
「お先に失礼いたします。ミスタークラウス」
「データと書類は解析班に回しておいた。お嬢さん。君に心の準備が出来たのなら、後日に改めて『メビウスの輪』について聞きたい。クラウス。後で連絡を入れる」

「君たちの働きに心からの感謝を。ゆっくり休んでくれたまえ」

 三人が朝日の中、それぞれのホームに去って行く。

 そして地下を徹底的に破壊され、本当の更地となった元教会に、私とクラウスさんだけが残された。

 私はまだ事態が完全に飲み込めず、立ち尽くしてる。

 クラウスさんが、『ライブラ』という牙狩りの係累組織のリーダーだったこと。
 私のいた『組織』が実は崩壊していたこと。
 ただし一部生き残りがいて、再建方向だったこと。
 実態は、余りにも力足らずな弱小組織であること。

 そして……私が『ライブラ』に入れられてしまったこと。

 一晩で色んなことが起きすぎ、もう何が何だか分からない。
 そんな私をうかがいながらクラウスさんは、

「君を勝手にライブラの所属にすると宣言してしまったが、気を悪くさせてしまっただろうか?」
「い、いえいえいえいえいえいえ!!」
 私はぶんぶんと首を横に振る。
 そしてクラウスさんを見上げる。
 彼に、昨晩見た修羅の顔はどこにもない。
 疲れた様子すらなく、私を見る目は、ただただ優しい。

「君の素性も大方は把握している。元の世界に戻れる見込みは?」

 私は首を横に振る。

「それは無理でしょうね。私がいた宇宙は、すでに因果の彼方ですから。
 無量大数とも言われる並行宇宙の中から、私がいた宇宙を探し出し、さらわれたときの時間軸を指定して転送するなんて真似、神性存在レベルですら可能かどうか……」

 猛烈な勢いで流れる水の中から、一滴の水を採取するのは容易(たやす)い。
 でも取ったときと同じ流れの中に、再び戻すのは不可能。
 私の存在とはそういうことだ。
 たまたま、すくい取られたはかない水の一滴。

 運が悪かったのだ。

 でもクラウスさんは、悲しげに目を伏せた。
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