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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 チェインさんと、来た道を早足で戻る。

「クラウスさんって、牙狩りの方だったんですか?」

 前々から違和感はあったけど、やはり貿易会社ってのは嘘だったのか。
 まあ私もクラウスさんに嘘つきまくってたから、とやかく言えないけど。
「今さらって感じだけどね。君、『ライブラ』の名を聞いたことは?」

 私は首を横に振る。『牙狩り』と『血界の眷属(ブラッドブリード)』くらいの知識はあるけど、あとはさっぱりだ。

 それからチェインさんは、ライブラや、クラウスさんのことについて少し教えてくれた。
 その後に言った。

「あなたたちの組織は弱小魔導組織でね。牙狩り組織に入りたかったみたいだけど、見事に蹴られた。
 で、名を上げるために無謀な計画を立ち上げたみたいね」

 弱小組織。

「牙狩りって正義の味方なのでは?
『組織』みたいな悪い奴らと組んだりするんですか?」

「どうかな。異形と戦うからといって、必ずしも善とは限らない。
 強大な力を持てあました殺人鬼が身を寄せることもあるのよ」

 うーむ。大人の世界とは複雑だ。
 そして私が強大だと思っていた『組織』が、同業者からは鼻も引っかけない扱いをされる弱小組織だった。
 二重の驚きだった。

「君。まだ、『メビウスの輪』が怖いと思う? 命をティッシュペーパーみたいに捨ててまで、命令を遂行しようと思う?」
 チェインさんが私の手を引きながら言う。
「え、ええ……だって私はまだ『組織』の一員……だと思うし」 
 私の口調は弱々しい。

 それと『組織』のことを口にするとき、いつも感じていた恐怖の感情。それが今は全く浮かんでこなかった。

「違う。君はもう『ライブラ』よ」

「だって、わ、私、ちょっと生き返るだけで皆さんみたいなすごい力は何もないし……戦闘なんて絶対無理……」

「ミスタークラウスが認めた。それだけが全てよ」

「…………」

 地面が揺れて、倒れそうになった。
「クラウス! ここが地下だって忘れてないか!? 自分が埋まりたいのかっ!?」
 スティーブンさんが呆れて叫ぶのが聞こえた。
 聖なる鮮血の光と、氷と炎の刃。
 それらが、地面の下から私を縛っていた鎖を、次々に引きちぎっていく。

「行こう。私たちがいつまでもいたら、邪魔になるわ」
「はい、チェインさん」

 ついていきながら、ただ呆然としていた。
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