第3章 禁断の果実
【 Jun 】
「気持ち悪い、か…」
俺は大野さんと、別れた後
力の入りきらない足で家路を歩いていた。
自分の中では、善意でやっているつもりだった。
でもそれは大野さんにとってみればただの迷惑行為…。
自分が彼を好きだから。
彼を好きになっても良いかと本人に確認したから。
相手も分かっているなら、この想いを
ぶつけても良いと…勝手に思い込んでいた。
そんなのは、俺のエゴであって
相手にとっては鬱陶しいもの…。
自分に都合の良いようにしていただけだ。
大野さんの思いも知ろうとせずに。
「何やってたんだろ…俺」
計り知れないほどの後悔と、罪悪感で
いっぱいになりながらマンションの前に着いた。
そしたら…。
智「松本さん…!」
さっき別れたはずの大野さんが、車の前で
俺に声を掛けて来た。
一体どうしてここへ…。
「何故…」
戸惑いながら俺は、駆け寄ってくる大野さんから
距離を取った。
俺はさっきあんな事を言われたばかりだ。
もう、大野さんの前でどんな顔をしていれば良いのか分からない。
貴方に迷惑をかけられない…。
智「あ、待って…っ!」
「…くっ」
俺は大野さんに背中を向け、閑静な住宅街を走った。
そんな俺の態度が気になったのか、
大野さんも俺の後を追ってくる。
住宅街を抜けて、大通りへと飛び出すと
人気のない路地裏に向かった。
でもその路地裏の先が、ついていないことに
行き止まりだった。
振り返ればもう、大野さんに唯一の出口を
塞がれてしまった。
智「…っ、はあ…どうして、逃げるんです、か」
大野さんは膝に両手をついて
肩で息をしながら俺を見上げた。
「だって、俺は貴方に迷惑な事しかしていなかったから…」
智「なんで、俺の言った事間に受けるんです?
俺…素直じゃないんですよ、素直になれなかった」
「え…?」
智「あ〜えっと…だからっ!」
怒った歩調で俺の近くまで来たかと思うと
無作為にネクタイを掴まれて…。
「…んっ!?」
大野さんの柔らかな唇が、俺の厚い唇に
触れていた…。
大野さんからのキスは、甘い香りと
ほんの少し苦いタバコの味がした…。