第3章 禁断の果実
潤「いや、あのえっと…何か気に触りましたか?」
松本さんはそっと俺の腕から手を離すと
戸惑った様子で俺に話し掛けてきた。
「別にそんなんじゃないです…」
潤「だったらどうしてそんなに…」
「だから、そういうのが気持ち悪いんです…っ!」
松本さんを振り返ってそう言った。
…いや、待って 俺今とんでもなく失礼なことを
「あ、の…今のは」
潤「分かりました、もう貴方に深く関わったりしません」
「松本さ――」
潤「今日は貴方に何もなくて良かった…
また配達があったらその時は宜しくお願いしますね」
「あ…」
俺に何も言わせず、松本さんは背中を向けて
去っていってしまった。
俺、なんて事言ったんだ。
『気持ち悪い』だなんて…そりゃ最初の頃は思ってたけど。
今はそんな事全然思ってないのに。
寧ろ俺の方が気持ち悪いのに…。
既婚者にどんどん惹かれていく自分。
駄目だと分かっているのに、どうしても気になってしまう。
そんな自分を悟られたくなくて、
それにさっきの事が恥ずかしくて…。
つい松本さんにその矛先を向けてしまった。
「俺、なんで…っ」
気が付いたら、頬を生暖かい雫が湿らせていた。
まともに顔も見てない、お礼も言えてない…。
言いたい、助けてくれてありがとうって。
まず最初に出るはずの言葉がなんであの時出なかったんだ。
どうしてそこで、弱い自分に負けたりなんかしたんだ。
どれだけ後悔しても、しきれない。
優しくしてくれた松本さんに、酷いことを言った。
「取り敢えず、煙草…吸いたい」
俺は呆然とした頭で、車に乗り込んで
思うままに車を走らせた。
その先には、自分の家じゃなくて…
あの高層マンションがそびえ立っていた。