第1章 嫉妬狂乱
「しょ、うさん…」
翔「ん?」
俺の顎をまだしっかりと、捉えたまま
優しい声音で返事をする。
俺はそっと翔さんの服の袖を掴んで
翔さんの目を見つめながら言った。
「俺ね、もう辛いの…苦しくて、辛くて
俺がどれだけ思っても智は、振り向いてくれない」
そこまで言ったら、かあぁっと目元に熱が溜まった。
翔「だから今度は俺を誘惑してるって?」
「え、な…ちがっ」
今度は翔さんが辛そうな表情をした。
翔「違わねぇよ、要はそういう事じゃないの?」
「いや、あの、えっと…ごめん、なさい」
翔さんに鋭く詰め寄られて、更にまた
目に熱が溜まる。
俺ってこんなにも、涙脆かったかな。
翔「あ〜もう! 何もかもややこしいんだよ…っ」
「え、んっ…! んふ、っ」
俺が考える間もなく、翔さんに強引に
唇を奪われた。
その振動でボロボロと涙が決壊する。
唇から伝わる翔さんの熱と、俺の涙の熱が
混ざりあって、顔全体が熱い。
「ん、っ…ふあ、あ、はぁ…っ、」
翔「…ニノ、抱かせて?」
優しくベッドの上に押し倒されながら
翔さんにそう言われてしまった。
「ダ、ダメだよっ、風邪が移っちゃう…」
翔「そんなの全部俺に移せばいい!
智くんから移された熱を、今度は俺に移せばいい」
「そんなの…ダメだよ」
どんなに翔さんが優しくしようとも
俺の心の中には、やっぱり智しかいない。
翔「…お願いだ、かず」
「――っ、」
その低く響く声で下の名前を呼ばれた時
俺の心で何かが弾けた。