第1章 ORIGINAL COLOR①
店に入るとすでに剛は一番奥の席に座っていた。
キャップを深く被り、顔を伏せてコーヒーを飲んでいる姿は、芸能人の休日を覗き見てしまったかのようだ。
「おまたせ。」
「おお!ありがとーな。」
わたしの声に反応し、パッと上を向く。上目遣いではにかむように彼は笑う。その笑顔にどきりとした。
いつまで経っても慣れない。
「今年もお願いしてええか?」
「うん。全然いいよ。お願いもなにもわたしなんにもしてないけど。」
「ありがとう。」
いまだに掴めない彼の頭の中。
わたしは彼の瞳にどう映っているのだろうか。
アート作品を見てもやっぱりピンとこない。
わたしが住む世界とは違う次元で暮らしているようで、こんなに近くにいてもすごくすごく遠くにいるような気がするのだ。
「今年はどうするの?アートは?」
「んー。実は呼び出しておいて、まだ決まっておらんのよ。」
「そうなの?」
剛は頭を掻きながらうーん、と唸っている。
「ひろかさんはなにがええと思う?」
「え?!!」
突然振られてびっくりする。
わたしに聞いてもアートのことなんてなにも分からないし、考えが浅はかだと思われたくなくて、なかなか答えが出てこない。
「なんか考え出したらキリなくてな。学祭も最後やし。ラストに相応しいもんにしたいねんけど、どうしたら良いか分からん。」
「そっか。」
「もうなんでもええわ。ひろかさん決めてや。」
「え?!!ちょっと!何言ってるの?!だめでしょ!」
そう慌てふためくと剛はふふふと笑いながら、いたずらにわたしを見る。
「あかんか。」
「あかんでしょ。」
その笑顔は反則だ。
アートとは真逆の平凡なわたしなんかに向けられていいものなのだろうか。
この笑顔が欲しい子は一体何人いるのだろう。