第1章 ORIGINAL COLOR①
わたしと堂本剛が知り合いであることをアヤメは知らない。
アヤメどころか、アート大生も、南社会大生も誰も知らない。
彼が2大学で超有名人なので、隠しているのだ。
もし知られたら大変な目にあうに違いないから。
わたしが堂本剛と知り合ったのは高校生の頃。
同じ高校に通っていたわたし達は、一度も同じクラスになったことがなく、会話だってしたことがなかった。
高校時代から堂本剛は有名で、女子の間でファンクラブが作られていたほどである。
わたしの方は堂本剛をよく知っていたが、彼がわたしを知っていたのにはびっくりした。
高校3年生の冬─
大学受験も間近の頃、ストレスを溜めていたわたしは、放課後音楽室のピアノを借りてなんとなく弾いていた。
中学生までピアノを習っていたので、たまにストレス解消に音楽室に来てはピアノを弾いていたのだ。
その日も無我夢中で弾いていると、ガチャと音楽室の扉が開いた。
先生かな?
と思って振り返ると堂本剛だった。
心臓が飛び出しそうだった。
学校で有名な彼と音楽室で二人きり。
嬉しいというより、緊張と気まずさで早くこの場から立ち去りたいという感じがした。
「たまに弾いてるやろ?」
「…え?」
少年のようなキラキラした瞳でこちらを見つめられ、息がつまるほど胸が締め付けられる。
「ひろかさんだっけ?」
「はい。」
名前を覚えられていることにびっくりした。
一度も喋ったことないし、わたしの顔すら知らないはずなのに。
「自分で曲作ったりはせえへんの?」
「え、うん。もう辞めてるから。たまにストレス解消で昔覚えた曲弾いてるだけ。」
「そうなんや。」
吸い込まれるほど綺麗な瞳に、綺麗な顔立ちで、見惚れてしまうほどだ。
窓の外から降り注がれるオレンジ色の夕日が真っ黒な黒髪をキラキラ照らしていて、映画のワンシーンを見ているようだった。
やっぱり人気者なだけある。
「俺も最近独学で練習してねん。」
「独学?すごい。」
「むずかしいけどおもしろいね。」
「そうだね。」
そんな短い会話を少しだけして堂本剛は去って行った。
その後もわたしが音楽室で弾いていると入ってくることが2、3回あり、そこで連絡先を交換したのだ。