第1章 ORIGINAL COLOR①
気がついたら講義が終了してしまった。
ノートを見ると真っ白で愕然とする。
わたしはこの時間なにをやっていたのだろうか。
単位も危ういというのに。
次の講義こそしっかり聞こうと自分に言い聞かせる。
一週間前に一度
「今年の学祭も頼んでええか?」
と剛から連絡が入って以来、わたしはずっとこんな調子だ。
すると、
「高橋〜!おはよう」
とのんびりとした声が聞こえてきた。
後ろを振り返るとアヤメだった。
「アヤメおはよう!」
「もう高橋ずっとアート大の方見てたでしょー!」
「え?!あ、いや」
わたしは何故が動揺してしまい、言葉が濁る。
「わたし後ろの方の席座ってたんだけど、高橋全然ノートもとらないから心配してたんだよー?」
「ごめんごめん。加藤教授の授業眠くなるんだよね。」
するとアヤメはクスクスと笑った。
「まあ、分かるけど。笑 声も低いし、ボソボソ喋るし、あれは眠らせにかかってるよね。」
「でしょ?」
アヤメはのんびりとした女の子で、大学に入って一番最初にできた友達である。
染めた髪の毛は肩まで伸ばしてゆるーくパーマをあてており、なんとなくプードルを連想させる。
「今年はどこ回る?」
「え?」
「アート大の学祭!」
「あぁ…。」
うちの学生は、この季節になるとアート大の話しで持ち切りで、アヤメもその一人である。
「TOKIOのライブも聴きたいし、エイトレンジャーのコントも観たいし、大野くんの個展も観たいし、光一くんのミュージカルも行きたい!あと堂本剛くんもね。」
「そうだね…。」
「高橋は推してる人とかいないの?」
「んー。いや、特にいないよ。」
「そうなんだあ。」
アヤメは少しつまんなそうにそう言った。
毎年学祭で頭一つ抜きん出る学生のアート作品はいくつかあって、その学生にはたくさんのファンがつく。
まるでアイドルや芸能人みたいな扱いを受けて、ウチの学生は、必ず誰か推している人がいるのだ。
堂本剛もかなり人気がある学生のうちの一人で、たくさんのファンがついている。
しかし彼の場合特殊で、とにかく活動が幅広い。
一年目はギターの弾き語りライブをやり、二年目はアート写真展を開き、三年目は詩集を販売した。
どの年も超人気があり、彼のファンはみんな熱狂的だと有名である。