第2章 ORIGINAL COLOR②
その男が去っていた5秒後くらいにまた扉が開き、今度は堂本剛が入ってきた。
「あ。」
危なかった。
もう少し早かったら鉢合わせているところだ。
「講義長引いたの?」
何事もなかったようにそう剛に聞くと、剛は今にも泣きそうな表情をこちらにグッと向けた。
「今の誰や?」
「え?」
あまりに切羽詰まった様子にわたしは少し恐怖を覚える。
「誰?」
「いや、知らない人だけど、、、。アート大の。」
「連絡先交換してたやろ?なんでなん?」
マズかっただろうか。
わたしは不安な気持ちになる。
剛と知り合いだってことは言ってないし、大丈夫なはず。
彼の異様な雰囲気にわたしも焦って弁明する。
「違うの。なんか、ピアノ弾いてたら、さっきの人が入ってきて、バンド一緒にやってくれって。でもあとでちゃんと断るよ。それに堂本くんと知り合いだって言ってないから大丈夫。」
剛はわたしの話しを黙って聞き、しばらく下を向いて考えるようにしてからボソっと口を開いた。
「あかんで。」
「、、、、え?」
「あかんで。一緒にやったら。」
蚊の鳴くような声でそう弱々しく呟く。
「やらないよ!!ちゃんと断るよ!!わたしは堂本君の作品を手伝いたいの。だから他の人を手伝ったり絶対しない!」
剛はまた黙り込み、教室内は妙な静寂が流れる。
「ごめんな。」
「、、、なんで謝るの?」
「ピアノ弾きたいやろ?」
自身と葛藤するように押し殺した声でそう言った。
「ううん。別に弾きたくないよ。お客さんの前で弾くの怖いんだもん。それに毎年楽しみなの。剛くんの作品観るの。だから余計なこと心配しないで自分の作品に集中して。」
「分かった。ありがとう。」
まだわたしの言葉を信じてないのか、無理して笑うようにそう言った。
まさかわたしがピアノを弾きたがってると思っているなんて。この気持ちどうやったら伝わるだろうか。