第2章 ORIGINAL COLOR②
「いや、ほんとだよ。聴いたことない音だったから思わず入ってきちゃったの。」
「そうですか。」
よく男の考えていることが分からない。
革ジャンを着て前髪を目のあたりまで伸ばしているあたり、いかにもバンドマンという感じだ。
「ねえ、ライン交換しない?」
唐突にそう聞いてきたので、驚く。
もしかしてこれはナンパというやつでしょうか?
「ごめんなさい。初対面なのでちょっと…。」
「お願い。いいじゃん。ラインだけだよ?」
丁重にお断りしたのに食い下がらない様子に呆れてしまう。
「え、なんでですか?」
「今スリーピースバンドやってるんだけど、ピアノ入れたいってずっと思ってたんだよね。一緒にやらない?」
余りに予想外なことを言われ、びっくりする。
「無理です。わたしも学祭での作品活動あるので練習できないですし。」
「アート大なんだから別に映像にこだわらなくていいじゃん。一度俺らのバンドの練習見に来てから決めてよ。それで無理なら諦めるし。」
わたしはとにかくこの場に剛が入ってくることを恐れ、とりあえず連絡先を交換し、あとで適当な理由をつけて断ろうとすることにした。
「わかりました。この教室17時まで借りてて、今ピアノ弾きたいので交換したら退出していただけますか?」
「ははは。笑 わかった、わかった。ごめんね。」
男はヘラヘラ笑いながらスマホをこちらに向ける。
男のあまりに強引な態度にすこしイライラしながらわたしもスマホを差し出し、QRコードで交換した。
男はごめんねー。と軽い感じで教室を後にした。