第2章 ORIGINAL COLOR②
そんな風に昔のことを思い出しながらたどたどしく弾いていると、ガチャと扉が開く重い音がする。
堂本剛が来たと思い振り返ると、そこには見知らぬ男性がいた。
アート大の学生だと思うが、一瞬焦ってしまう。
ここで堂本剛と待ち合わせしていることがバレてはいけないから。
「あ、すみません。」
なんとなく謝ると男性はニコッと笑う。
「何年生?見ない顔だけど。」
わたしは脳みそをフル回転させる。南社会大生だと言うと、なぜこの教室を使っているかと問いただされる。そうすると剛と待ち合わせしていることを言わなければならない。
アート大生のふりをしなければ。
「えっと4年生です。」
「そうなんだ。俺も4年だけど。音楽学部じゃないよね?」
とすると、この人は音楽学部の人なんだ。わたしは適当に違う学部の人間を装うことにする。
「はい。映像学部で。昔ピアノ習ってたから久しぶりに弾きたくなって。」
「あ、だから見たことなかったんだ。」
内心安堵する。よかった。バレなかった。
もしここで堂本剛が教室に入って来てしまっても他人のふりをすればなんとか誤魔化せる。
やはり学内で待ち合わせるのは危険だ。
次からはやはり外で会うことをすすめよう。
「ショパンだよね?」
「はい。」
「好きなの?」
「まあ昔よく弾いていたので。」
男はなぜここに入ってきたのだろうか。
なぜこんなに話しかけてくるのか意図が読めず、探るように質問に答える。
「俺軽音だからクラシックよく分からないけど、それ戦場のピアニストのテーマ曲で好きだったから知ってる。」
「そうですか。」
「うまいね。」
「いや、うまくはないですよ。」
アート大は芸術のエリート学校。もっと上手い人なんてたくさんいるのに、ブランク4年のわたしに上手いだなんてお世辞が丸見えで、白ける。