第2章 ORIGINAL COLOR②
しかし中学に上がってからいわゆるスランプに時期に突入し、わたしはピアノ教室をサボり気味になる。
母親にはあんだけ高いお金を払って毎日通わせたのだから真面目にやりなさいと、ヒステリックに叱られ、ますますわたしはピアノから遠ざかってしまったのだ。
スランプに入ってしまった理由は、多分わたしが井戸の中の蛙だったと気がついてしまったからだ。
小さい音楽教室、小さいコンクールではあれだけ囃し立てられたわたしであったが、中学にはいり、もっと大きなコンクールに参加すると上には上がいて、わたしなんか何者でもない。平凡な人間であると突きつけられてしまったからである。
母親には
みんな最初は凡人から始まる。だから諦めずに他の人の何倍も努力しなさい。
とよく怒られたが、当時のわたしにはなにも響かなかった。
なぜなら努力ではどうにもならないものがあるんだ。と気付いてしまったからである。
才能のある人は技術がどうとかではない。
鍵盤を一つ弾くだけで、会場が全てその人の空気になる。
聴くものの心を一瞬にして掴むチカラがある。
その実態がなんなのか分からない。
どうしたらそのチカラを得ることができるのか分からない。
でも一つ言えること。
そのチカラはわたしにはないということ。
そしてそのチカラを持った人間が「天才」と呼ばれるということ。
中学生のわたしにはあまりにも残酷な現実を叩きつけられ、人前でピアノを弾くことが怖くなってしまった。