第2章 ORIGINAL COLOR②
昨日の話し合いでは結局何も決まらず、会議は持ち越しとなった。
会議といっても、わたしがどうにかできる問題でもないのだが、とりあえず一緒にいて欲しいとのことだったので、今日もまた話しをする時間が設けられた。
今日はアート大の中にある、貸し教室を使って行いたいとのことだった。
わざわざ他の人にバレないようにいつも学校から遠い吉祥寺で会っていたのに、学内で会って大丈夫なのだろうか。
少し不安な気持ちを抱えながら、わたしは指定されたアート大の音楽棟の中にある「貸し教室106」に向かった。
中に入ると防音室で、ピアノが一台置いてあった。
まだ堂本剛は来てないようだ。
防音になってるため窓はなく、重い扉を閉めるとシンという音が耳の奥で響いた気がする。
真っ黒でピカピカのグランドピアノが一台仰々しく置いてあり、まさかと思う。
これはわたしに弾けということなのだろうか。
彼なら言いかねない。
高校生の時は何度か音楽室で勝手に弾いたりしていたが、大学に入ってからは全く弾かなくなってしまった。
感覚で覚えてはいるだろうが、腕が鈍ってしまっているに違いない。
全く勝手な話だ。
わたしは彼のように天才ではないから、練習していなかったら衰えてしまうのに。
わたしは剛が来る前に少しだけ慣らしておこうと思い、昔よく弾いたショパンの夜想曲第20番を選ぶ。
調律をして鍵盤をポーンと鳴らすと、遠い遠い昔に戻った気がした。
懐かしい。
学校が終わると、友達との誘いを全て断ってピアノ教室に通いつめた。
母が昔ピアノをやっていて、やって損はないからとイヤイヤ始めさせられたのだが、気がついたら小学校6年間と中学3年間、計9年間わたしはピアノ漬けの毎日だった。
ショパンの夜想曲第20番はわたしが一番好きな曲で、弾けるようになるまで朝から晩まで時間を見つけては練習したものだ。
完璧に弾けるようになったのは小学校5年生で、親にもピアノの先生にも、コンクールでも大変驚かれ、天才少女だなんて囃し立てられたりもした。