第28章 1番最後。
「綾菜、夕飯準備出来てるって……」
鉄朗は、最後までハッキリと喋らなかった。…いや、きっと喋れなかった。
多分、それは、私が泣いてるのを見て驚いたから。
泣いちゃダメって、分かってる。鉄朗に迷惑がかかるもん。
そう思ってるのに、なんで涙が止まらないんだよ…。
「綾菜、ごめん」
鉄朗は私を自分の胸に引き寄せてそう言った。
「…鉄朗は謝らないでいいんだよ。私こそごめんなさい」
優しく頭を撫でられる。…そんなことされたら、さらに涙が溢れてきてしまう。
「心配かけてごめんね、ご飯食べよう」
「ムリ。綾菜泣いてんじゃん。無理に泣きやもうとか思うな。綾菜が泣いてんのにそのままにしておくわけにもいかねぇし、綾菜の涙をとめるの、もう当分できねぇじゃん。だから、最後ぐらい自分に素直になって。……俺に、甘えて」
ダメ、私が悪いのに、優しくしないで
涙、止まらない。
零れてくる涙をなんども手の甲で擦ると、鉄朗によって阻止される。
「目、赤くなる。…つっても、俺、貸してやれるハンカチ、持ってねぇや。ごめん」
「ふふ、出かける時はちゃんとハンカチ持ってなきゃダメだよ」
鉄朗のおかげで、自然と笑がこぼれた。
今、泣いてる暇はない。鉄朗との時間を寝ていた分取り戻さないと、だもんね。
「私、もう平気だから、ご飯食べよう。お腹すいちゃったし」
「さすが綾菜だな(笑)」
「なにそれ、ひどい」
いちいち、もう平気なのか、って聞かないところ、流石だね。
私がそう聞かれたら、その優しさに止まった涙が出てしまうって言うの、分かってる。
ちゃんと、私の強がりを、分かってくれるんだね。
ありがとう。
その意味を込めて、笑顔で鉄朗の顔を覗いた。