第27章 甘くて苦い。
これは、バレンタイン当日の朝の出来事。
「おはよー、綾菜」
「おはよう。」
一言でそう返すと、光太郎は少し機嫌を悪くして言った。
「俺、チョコ欲しいんだけど、くれねーの?」
…なんだ、そんなこと…。
少し、予想はしてたけど。
「あげないよ。」
私がそう言ったタイミングとほぼ同じタイミングで、光太郎のスマホが音を鳴らし始めた。
「あ、エマちゃんから電話だ」
「私、部屋戻るから、ここで電話したら?」
言葉だけ残して、光太郎の返事も聞かずに、私は自分の部屋に戻った。
…エマさん、本当にチョコ渡すんだ…。…なんか、こっちまで緊張してきたような。
あ、私も鉄朗に会えるかどうか聞かないとな…。なんて思いながらワイシャツに袖を通した。