第26章 久しぶりの。
「ん…、きもちい…。」
「コラ、気の抜けた声を出さないの」
クロにお父さんみたいなことを指摘され、私は気を抜いていたことを思い出した。
「ごめんなさい。クロの手つきが、なんか…、こう…気持ちが良くて…つい。」
「お前、やめろって…。俺には刺激が強いの」
刺激が強い、とは。
私には何をやめればいいのか分からなくて、とりあえず声を出さないように意識をした。
私の頭はクロが全てやってくれたので、クロの頭は、私が洗わせてもらうことにした。
「なんか、自分で洗うより、人に洗ってもらった方が気持ちいよな」
「うん、私もそう思う」
私たちは鏡の中で見つめ合うと、二人同時に優しく笑い合った。
「クロ、体も洗わせてもらえる?」
「いいよ。てか、むしろウェルカム」
なにそれ、とか思い、私は思わず吹き出す。
「え……。綾菜の元気な笑い方初めて見た。」
私は鏡に映っているクロの顔を見ると、そこに映っているクロの顔は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「そんなに驚く?」
「そりゃ驚くだろ。綾菜のそんな笑い方なんざ、びっくりするわ。」
「私だって爆笑ぐらいする。」
人間だもん。笑うよ。
「…まぁ、小さな頃はね…。」
「俺が見たのは初めてじゃん。」
「クロのおかげ。ありがとう」
私は優しく微笑むと、クロは少し照れながら言った。
「…体、洗ってくんねーの?」
「洗うよ、ごめんね」
私はボディーソープを掌に出して、あわあわにすると、クロの体を触らせてもらった。