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ヒトヒト物語

第1章 清らかな水の王国


少女の隣について、シドは宿への道を歩いてく。


「そういやアンタ、名前は?俺はシド」

「……セラ」

「セラか、よろしくな」


シドは知り合ったばかりにも関わらず、少女…セラに遠慮なく話しかけた。

シドが、《獣人族》の中でもヒト懐っこい部類に入る《犬人》だからだ。


「セラは凄いな。見ず知らずの他人を助ける為に、大男相手に向かって行くとか」

「見てて不快だったから注意しただけよ」

「でも普通しねえって。余程、自分の強さに自信が無けりゃな」


シドの言葉に、セラは口を噤む。


「喧嘩好きなのか?」

「まさか。……少し戦えるってだけよ」

「へぇー」


相槌を打ちながら、シドは考える。


(“少し”の実力で、巨漢相手に冷静で居られるものかね〜)


その時、セラが足を止めた。


「この宿」

「お、着いた?」


宿に到着し、シドは早速手続きをしに中へと入った。

黙って部屋に戻る訳にも行かず、セラはその後ろでシドを待つ。

手続きが終わり振り返ったシドは、セラと目が合い嬉しそうに笑った。


「待っててくれたのか?」

「そういう事になるのかな……何も言わずに帰るのは、失礼な気がして」


でももう戻る、とセラはさっさと部屋に向かい始めた。

部屋のある方向が違う為、シドは後は追わないが……その背中に、再度声をかけた。


「なあ、セラは何の種族なんだ?あと、顔見てみてえんだけど」


セラはシドに振り向いて、被っていたフードを外した。


「獣人族……狐人よ」


セミロングの茶に近い金髪と、紫紺の瞳……頭から生えている狐の耳。

予想に反した美しい容姿に、シドは暫し目を奪われる。


(それに、なんだ……)


凛としているのに、儚さのようなものも感じる……セラは、不思議な雰囲気を持っていた。


「お……俺は、犬人」

「うん、知ってる。貴方は耳隠して無いから」


そう言えばそうだった……間抜けな事を言ったと内心で恥じるシドだった。


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