第1章 清らかな水の王国
陽光を浴びて輝く、白銀の長髪。
深い空のように澄んだ、青藍の瞳。
少女の容姿は、天神の眷属とされるヒト《天人族》の特徴そのものだった。
天人族は、その殆どが《天界》を住処とし、地上に居る事は滅多にない。
少女が天人族であった事も、男に目を付けられた要因の一つかも知れない。
「──ビーナ!」
シド達の背後から誰かを呼ぶ声。
振り向けば、そこには長髪に獣耳のある青年が立っていた。
「コア!」
青年を見て、少女の表情が明るくなる。
「お連れさん?」
「はい!」
コアと呼ばれた青年が、少女・ビーナの元に歩み寄った。
「この人達は?」
「さっき助けて貰ったんです。私、また絡まれてしまって……」
「これを落としたのが不運だったな」
そう言ってコアがビーナの頭に被せたのは、クリーム色のフード帽。
普段はそれで白髪を隠しているらしい。
「連れを助けてくれて、ありがとう。何か礼をしたい所だが……生憎、この後用事があるんだ」
「礼なんて要らねえよ。大した事してねえしな」
シドがそう答えると、少年もコクと頷いた。
「それでは失礼する。……行くぞ」
「はい!」
コアが歩き出すと、ビーナはシド達に一礼して、その後を追う。
そして、二人はこの場から去って行った。
二人が去った後、少年もクルリと踵を返す。
「あ、おい!」
シドは、それを呼び止めた。
「……私に何か用でも?」
振り返った少年が、真っ直ぐシドに瞳を向ける。
目が合い、シドは初めて、相手がビーナや自分と年の変わらない“少女”であると気付いた。
シドは、笑みを浮かべながら話しかける。
「アンタも旅人なのか?」
「ええ」
「俺もなんだ。ちょっと聞きたいんだけど、この近くに宿って無いか?出来れば安い所で」
シドの質問が予想外だったのか、少女は少し間を置く。
「……悪いけど、この辺りの地理には詳しくないの。私が宿泊してる所で良ければ、案内するけど」
「本当か?なら頼む!」
不躾な頼みにも関わらず、少女は引き受けてくれた。
(宿確保……良い奴に会えて良かった)
そしてシドは、満足げに笑った。