第1章 清らかな水の王国
この世界に多く存在する生物のうち、いわゆる知的生命体と呼べるのは“ヒト”のみ。
ヒトは、大きく六つに分けられる。
竜神の眷属とされる《竜人族》
最も異質といわれる《鬼人族》
ヒトと獣の血を汲む《獣人族》
独自の進化を遂げた《亜人族》
天神の眷属とされる《天人族》
魔神の眷属とされる《魔人族》
いずれも特別な能力を有し、その血が濃ければ濃い程強く、純血の者は現代の王族や貴族である。平民には混血の者が多い。
シドの頭には獣の耳があり、後ろには尾もある。男達も、それぞれ獣の特色を身体に持っていた。
これは珍しい事では無い。現代最も数の多い種族は《獣人族》なのだ。
「ジェインがもし小人なら、厳重な警備でも掻い潜れるかも知れねえし……魔人なら、デタラメな強さで敵をぶっ飛ばせる」
「それは、まぁ……そうだろうが」
「……いくら魔人でも、『帝国』を敵に回すバカはそう居ねえだろ」
シドの力説も虚しく、『帝国』という一言でジェインの存在は否定されてしまった。
話に飽きたのか、男達は店員に酒の追加を注文し始めた。
シドは肩を落とし、ついでに頭の耳もだらんと力無く垂れる。
(こいつら、状況がまったく分かってねえな……)
シドは、男達に忠告したかったのだ。
(ジェインの次のターゲットは、このファトムス王国の国宝なんだぜ……?)
パリンッ ドカッ
耳に届いた音に、シドの耳がピンと立ち上がる。
「もういっぺん言ってみろ‼︎」
何事かと店の外に出てみれば、おもてのテーブルで客同士が揉めていた。
地面には割れた皿の破片が散乱し、壊された椅子も転がっている。
怒鳴り声の主、浅黒い肌に大きな体の男は、揉めている相手の胸ぐらを掴んでいた。
「やめて下さい!」
「何度だって言ってやる」
相手は、マントに身を包みフードを被っている一人の少年。その横には、涙目の少女が居る。
少年は、静かな声音で言った。
「昼間っから飲んだくれ、店員に怒鳴り、あまつさえ女性の体に不躾に触れるなど、下品な蛮行を見れば酒も料理も不味くなる……まったくもって不愉快だ。今すぐその臭い口を閉じて、店から出て行け!」
「テメェ……‼︎どうやら死にてえようだな」