第2章 水精霊の宿る石
シドから逃げ続けるセラ。
(どうして動けるの……⁉︎)
その表情は、焦りの感情をはらんでいた。
自分は確かに、彼に魔術で雷撃を打ち込んだ……命を奪う程の威力ではないとはいえ、受ければどんな種族だろうと数時間は指一本動かせなくなる筈だ。
それなのに、シドは今もセラを追っている。追う事が出来ている。
《獣人族》だからではない。シドというヒトが持つ、純然たる“強さ”……それを感じ取ったセラは、焦っていた。
(この国の兵達も相手しなきゃならないのに、シドまで……)
ただの追手なら、他にも対処のしようはある。しかし相手はシドだ。
(このヒトとは、戦いたくない)
「セラ!逃げんな!」
「無茶言わないで!」
こっちの気も知らないで……セラは、いっそ戦ってしまおうかとも思った。
しかし、あの笑顔を思い出すと、どうしても迷ってしまう。
(──でも……)
走りながらセラは、服の袖をまくり、両腕を露わにする……そこには、いくつもの魔術陣が刻まれていた。
「居たぞ‼︎曲者だ‼︎」
ついに二人は、ファトムスの手勢の目に見つかってしまった。
(もう少しだったのに……)
周囲を兵士に囲まれ、逃げていたセラも足を止めざるを得なくなる。
(衛兵は兎も角、魔術師が居るのが厄介だな……)
シドも、セラではなく周囲に警戒を向けた。
「怪盗ジェインを拘束しろ‼︎」
指揮官から指示が下る。
魔術師団が、一斉に呪文を唱え始めた。
迷っている暇など無い……セラは、ある方向を指差し、シドに向かって叫んだ。
「シド!私をあそこまで連れてって!」
「‼︎」
セラが指差す先には、王宮の城壁がある……そこには、一つの大きな魔術陣が描かれていた。
それが何を意味するのか、シドには分からない。
それでも、シドは迷わなかった。
「しっかり掴まってろ!」
セラの胴に片腕を回し、シドは脚に力を込めて地面を蹴った。
魔術師の呪文より速く、兵士の攻撃より疾く、障害となる敵は薙ぎ払い、一直線に魔術陣へと向かう。