第2章 水精霊の宿る石
セラは、手の中の精霊石を握り込み、その手を背中に回した。
紫紺の瞳は、シドを見つめたまま……
「シドは、どうしてここに?」
「怪盗ジェインを追って」
「……私を捕まえるの?」
「ああ、そのつもりだ」
そこで初めて、紫紺の瞳が微かに揺れる。
「……嫌だなぁ」
「捕まるのが?」
「ううん……貴方と戦うのが」
次の瞬間、シドの身は室外に投げ出されて居た。
「な……⁉︎」
咄嗟に受け身を取って着地する。それとほぼ同時に、王宮のあちこちからヒトの足音が響き始める。
(クソ、魔術を解いたのか……‼︎)
宝物庫に入る前、セラが結界に施した陣式は、結界を無効化する魔術だった。
そのお陰でシドも侵入出来た訳だが……セラが魔術を解除した今、結界が再起動し侵入者を外に弾き出し、侵入者の存在を王宮中に報せたのだ。
同じく室外に出されたセラは、自ら解除したからこそ次の行動が早く、王宮の外を目指して駆け出した。
「あっ、おい!」
しかしセラは忘れていた、シドが犬人であるという事を。
シドは床を蹴り、セラの後を追う。
獣由来の強靭な脚力で、数秒も経たず追い付いた。
その背中に飛びかかり、セラの体を巻き込み床へと倒れ込む。
怪我をさせたい訳ではないから、シドは両手でセラを捕らえながらもその体を庇った。
しかし、それが仇となる。
─バチッ─
暗闇に走った閃光、痙攣する身体。
シドは、文字通り雷に打たれ、身体の自由を奪われた。
視界の端に映る、セラの手……手袋を付けていないその手の平には、魔術陣が刻まれていた。
(雷の魔術……あらかじめ仕込んでたのか……)
シドの腕から抜け、セラは再び走り出す。
シドに成す術は無い。回復力の高い《獣人族》といえど、雷に打たれては身体を動かす事など出来ない。
「──待ちやがれ!」
出来ない、筈だった。
しかしシドは、たった数秒の内に身体の自由を取り戻す。
弱い雷に打たれた程度では、シドの意志は砕けないのだ。