第2章 水精霊の宿る石
城壁に辿り着いたと同時に、セラは魔術陣に魔力を注いだ。
魔術が発動し、二人の体は陣の中へと沈み始める。
(何だ……⁉︎)
そして、二人の影は王宮より姿を消した。
気付いた時、シドは見知らない場所に居た。
周囲にファトムス軍は見えないが、代わりに樹木に囲まれている。
「ここは……」
どう見ても森の中だ。シドは、自身が抱えているセラへと視線を落とした。
(城壁で発動したのは、空間移動の魔術だったのか……)
魔術の中でも多量の魔力を消費するものだ……なのに、セラは疲労の様子一つ見せない。
セラは、シドの腕から離れようと踠き始めた。
「もう放して」
「何でだよ、折角捕まえたのに」
セラは違うと抵抗するも、シドは小揺るぎもしない。王宮から逃げられたというのに、セラのピンチは変わらない。
「暴れんなよ。別に危害加える気はねえし」
「放して!」
「俺はただ、お前の持つ精霊石を──」
「精霊石は誰にも渡さない‼︎」
セラが心底から叫んだ……その時、二人の背後に迫る複数の影が現れた。
気配を察知しシドは駆け出すも、影は難なく追随する。
(ファトムス軍か⁉︎)
─ガンッ─
辺りに響いた鈍い音。
「ヤ、ベ……」
「シド!」
シドの動きを読んでいた別の影が、その背後を取り後ろから頭を殴ったのだ。
図らずも自由になったセラは、地に足を着けながら崩れるシドの体を支える。
そこに、また別の影が接近した。
「‼︎」
セラが気付いた時には、遅かった。
「──ごめんなさい」
セラの額に触れたその影は、自分の手により意識を失う彼女に向けて、謝罪の言葉を口にする。
他の二つの影が、それぞれシドとセラの体を受け止めた。
「上手く行ったな」
「ああ。……国軍が嗅ぎつけて来る前に、早く運ぼうぜ」
「てっ、丁寧にお運びして下さいね!」
その影達……三人のヒトは、二人を連れこの場を後にした。
「で、どっちが怪盗ジェインなんだ?」
「……さあ?」
「目を覚まされてから聞いてみましょう」