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ヒトヒト物語

第2章 水精霊の宿る石


ファトムス王国───王宮

夜中、王宮に侵入した怪盗ジェインは、ターゲットのある一室を前に立って居た。

その一室には、全体を覆うように、厳重な結界魔術が張られている。

それを目の当たりにしたジェインは、ただ笑った。

結界魔術など、そこに『国宝』があると宣言しているようなもの……ジェインは、《精霊石》の在り方を確信したのだ。




ジェインは、自分で自分の右手親指を噛み切った。

血で結界上に円を描き、決められた文字を書く。

そしてジェインは、完成した陣に自身の魔力を注いだ。




宝物庫侵入に成功した、怪盗ジェイン。

所狭しと飾られた魅惑的な宝に目もくれず、真っ直ぐ最奥へと進む。


「!」


目的の『国宝』を見つけ、ジェインは直ぐ様それを手に取った。


「──それが、カエルラの精霊石か」


室内に響いた声、ジェインは弾かれたように振り向き、声の主を視界に映す。

ジェインは驚愕に目を見開く、それは相手も同じだった。


「な、んで……」

「……」


ジェインを見つめる声の主・シドは目の前の事実に動揺が隠せないでいる。


「お前が、怪盗ジェインなのか⁉︎──セラ‼︎」


正体を知られた……セラは言葉が見つからず口を噤んだ。

シドは、それを肯定と受け取る。

シドがファトムス王国を訪れた理由は、怪盗ジェインを捕らえる為だった。ジェインの持つ精霊石を手に入れる為だった。

シドの『目的』には、精霊石が必要不可欠だからだ。

そして、《賢者》も……


(驚いたけど……これはチャンスだよな)


精霊石と賢者、上手く行けばどちらも一度に得る事が出来る。

そう考えたシドは、いつも通りの笑顔を浮かべながら、ゆっくりとセラに歩み寄った。


「セラ、答えてくれ。お前が、怪盗ジェインなのか?」

「……そう呼ばれてるわ」

「ニーグレト王国から、土精霊フルウスの精霊石を盗んだ?」

「ええ」

「ユーブラ王国から、樹精霊イリデタの精霊石を盗んだ?」

「ええ」


セラの目の前に立ち、シドは笑みを消す。

金色の瞳を鋭く光らせて、紫紺の瞳を射抜いた。

セラは目を逸らさない。


(こんな状況でも、動揺してないんだな……)


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