第1章 清らかな水の王国
翌朝───中心街・宿屋
シドは悩んでいた。
「焼き卵にするか茹で卵にするか……⁉︎」
内容は、朝食のメニューについて。
この宿屋は、部屋は地味だが食事は美味である。
ふわふわな食感が自慢のスクランブルエッグ、半熟に仕上げられたボイルドエッグ、どちらを見てもとても食欲をそそられる。
結局シドは両方選んだ。代わりにスープを我慢して。
(偉いぞ、俺)
プレートを持ってテーブル席に向かうと、宿の客が疎らに居て各々朝食を摂っていた。
そして、そこにはセラの姿もある。
シドは、迷わずそのテーブルに向かった。
「オハヨー、セラ!一緒に食べても良いか?」
「……おはよう。お好きにどうぞ」
「やった」
今のセラはマントを着ていない。
昨日、別れ際に見たセラの顔……シドは食事中、何度も目を向けた。
低血圧なのか、セラの顔は昨日より白く見える。朝食も、少量しか摂っていない様子だ。
「それだけで一日保つのか?」
「元々食は細い方だから……保たない時は、果物とか食べるし」
「ここの卵料理美味いぞ!」
「そう」
シドは、親切心でスクランブルエッグを少しセラのプレートに移した。
「要らないんだけど……」
「食べてみろって。卵は栄養も高いんだぞ」
「食べた事無い訳でもないのに……」
セラは、渋々といった様子でスプーンで卵を掬い、口に運んだ。
「……美味しい」
「だろ⁉︎」
「でも、もう要らない」
「何でだよ!」
その時、セラが初めて、シドの前で微笑んだ。
シドは言葉を失い、無意識のうちにセラをジッと見つめる……彼女に見惚れるのは2度目だった。
セラの目線が、シドの手元に移る。
「危ない!」
「えっ?」
次の瞬間、鋭い音が食堂内に響いた。
シドがグラスを、床に落とし割ってしまったのだ。
(ヤベ……!)
シドは、直ぐ様床にしゃがみ、破片を拾い始める。
セラに見惚れた事で手から力が抜けてしまった……
(……なんて、口が裂けても言えねえけど)