第8章 決意
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その報告が降谷に入ったのはポアロで聞いたレシートを見つけた直後だった。
読み解いたメッセージにまた厄介な事に巻き込まれているなと溜め息を吐くと共に葵もそこにいるのだろうかとあの日溜まりを思い浮かべたとき、しゃがむ降谷の側を仲睦まじそうなカップルが通り、はらりとハンカチを落としていった。
「ハンカチ落とされましたよ」
「え?あっ、あっ!すみません。ありがとうございます!」
ポケットを探った女が目尻を下げそれを受け取ると男が徐に女の肩を抱いた。連絡係からの盗聴の有無を確認する合図に降谷が小さく頷くと男がゆっくり、そして小さく口を開いた。
「あの子が冷蔵車に入ったきり音沙汰なし。現在車を捜索中です」
「僕も追うことになった」
「了解」
それっきり黙った男に代わり頭を下げる女に安室透としての笑みを浮かべて背を向け、取り出した携帯で素早くGPSを起動するが指し示す場所は阿笠邸。
その事実に米神を押さえる。珍しく置き忘れたようだが、なにも今日忘れなくてもいいだろうとタイミングの悪さに悪態を溢しつつ無意識に寄っていた眉間を解しながら一度息を吐く。
今の自分は安室透だ。
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