第10章 邂逅と思惑
灰原の背中を目で追っていた葵は、ふと自分に向けられる視線に気づき反射的に振り向いた。
幼い子供を怖がらせないためか、しゃがみこんだジョディがメガネの奥の瞳を細めながら此方を窺っていた。
「こんにちは。私はジョディっていうの。あなたのお名前は?」
『こんにちは!絢瀬葵、5歳です!仲良くしてね!ジョディ…先生?』
先程コナンがつけていた先生を口に出しながら首を傾げる葵に、苦笑するジョディの隣で”FBIってわかるか?”とコナンが問いかけてきた。
(…これを見越してか)
「FBI!わかるよ、ジェイムズさんのところでしょ!」
出された名に驚き目を瞠る二人を他所に、あの邂逅の日に打ち合わせた内容を語る。
公園の東屋でジェイムズに声を掛けられ、初めてのプレゼントに何を選んでいいか分からず悩んでいた葵の相談に乗ってくれた。その後も沖矢が来るまで話し相手になってくれていた。
語るうちに二人が納得したような顔を見せる。それぞれジェイムズや赤井から似たような話を聞かされているのだろうと推測して話を進めた。
『バイバイするとき飴もくれたんだよ!ぶどうだった!あとね、天使みたいだって褒めてくれたの!』
「やっぱり!途中からそうじゃないかと思ってたけど、真っ白な天使って葵ちゃんのことだったのね」
口元に手を当てながら、しきりに頷くジョディの隣で安堵するように息を吐き、次いで首を傾げるコナンが目に入った。
必要以上に心配をかけたことに内心で謝罪を紡ぎ、自身のすべきことのために視線をずらりと並ぶ出店に向けた。
『コナンくん!あれ、おいしそうだね!』
「ん?ああ、チョコバナナか。結構並んでるな」
『買ってきていい?』
「うーん、まぁ近いしな。博士が来たら伝えとくよ!」
『やった!ありがとう!いってきまーす!』
背負ってきたリュックを前に抱えて列の最後尾に並んだ葵を確認した二人は笑みを消して顔を寄せている。
(これで情報交換もスムーズにいくでしょ)
弧を描く口元をリュックで隠して視線を外した。
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